愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「実はわたくしの母には妹がいるんですけれども、これがわたくしによく似たとっても我の強い女性でして。公爵家の娘だというのに平民と恋に落ちて、そのまま駆け落ちをしてしまったのです」

「駆け落ち……。そうなのか。血は争えない、ということなのだろうな」


 公爵家の娘――ということは、王族に次ぐ地位の持ち主だ。それなのに平民との結婚を押し通すとは、相当我の強い女性なのだろう。


「そんな叔母が住んでいるのがこの辺で、わたくしはよく母と一緒に遊びに来ていたんです。年の離れたいとこもいまして、これがとっても可愛くて。わたくしはいとこといとこの友人たちと一緒に、しょっちゅうこの辺で遊び回っていたんです」

「なるほど。だから俺をここに連れて来たのか」


 彼女にとって、ここは思い出の場所なのだろう。ゆっくり周囲を見渡しつつ、俺は小さくうなずいた。


「クラルテにとって大切な場所は、俺にとっても大切な場所だ。教えてくれてとても嬉しいよ」


 言いながらクラルテをそっと抱き寄せる。彼女は照れくさそうに笑ってから、静かに目をつぶった。


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