愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「わたくし、ハルト様一筋ですよ」

「うん」

「めちゃくちゃ愛してますよ」

「うん」


 ああ、ハルト様が拗ねてます。多分ですけど、すでに状況は理解できているし、納得もしているのでしょう。それでも、心で飲み込めないことってありますものね。


「……それだけわたくしを愛してくださってるってことでしょうか?」


 おっといけない。心の声が漏れてしまいました。
 ハルト様はほんのりと目を見開き、それからわたくしのことを両手でギュッと抱きしめます。一瞬だけ見えた彼の顔は今にも泣き出しそうで。愛しさのあまり、わたくしも涙が込み上げてきます。


「うん」


 耳元で囁かれる先ほどとまったく同じお返事。けれど、この二文字からハルト様の想いが痛いほど伝わってきます。


「……だったら、一生手放さないでくださいね」

「当たり前だ。クラルテなしの人生なんて俺にはもう考えられない」


 ああ、本当に、わたくしの婚約者様はなんて愛おしいのでしょう。チュッと触れるだけのキスをして、わたくしたちは笑い合うのでした。


 
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