愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「な……またあなたなの!?」

「そうですよ! ハルト様の現婚約者であるクラルテです」


 現婚約者の部分を強調して、クラルテがグッと胸を張る。ロザリンデは眉間にしわを寄せつつ、クラルテと俺とを交互に見た。


「わたくし、この間申し上げましたよね? 金輪際、ハルト様に近づかないでくださいって! ハルト様はわたくしの旦那様なんです! わたくしだけの大事な人なんです! ちょっかいかけないでください! 大体、自ら婚約を破棄したくせに、こんなときにハルト様を頼ろうだなんてありえません! おこがましいです!」


 クラルテは俺を抱きしめつつ、ロザリンデのことをにらみつける。


(クラルテは本当に負けず嫌いだなぁ……)


 ロザリンデとの勝負は完全についているのに。……というか、勝負にすらなっていない。俺は思わず苦笑した。


「だって……! だってだって、ハルト以外に頼れる人なんていないんですもの!」

「だからなんだ? 頼られたところで俺はお前のことなど知らないぞ」

「な……!」


 ロザリンデが口をあんぐり開ける。俺は大きくため息をついた。


< 259 / 266 >

この作品をシェア

pagetop