愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「だって、旦那様はとっても素敵なお方ですもの! 少しでも力になりたいと思うのは当然です!」


 クラルテはそう言ってキラキラと瞳を輝かせる。その力説ぶりに俺は思わず怯んでしまった。


「いや、君は一体俺のなにを知っていると……」

「魔術師団消防局の若きエース! その水魔法の威力や技術は他の追随を許しません。これまで旦那様が火災から救ってきた人々は数知れませんし、頑固で真面目、仕事一筋のその姿勢に、わたくしは強い感銘を受けてまいりました。加えて凛々しく麗しいその容姿! 美しい黒髪も、青い瞳も、引き締まった体躯も、すべてがわたくしの理想そのもので、本当に惚れ惚れしてしまいます!」


 ひとつ質問を投げかけただけだというのにこの回答……聞いているこちらのほうが恥ずかしくなってくる。頬が熱くなるのを誤魔化していると、クラルテはずいと身を乗り出し、俺の顔を覗き込んだ。


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