愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「そういうわけですから、わたくしは旦那様が婚約に納得していなくても一向に構わないのです! お側で身の回りのお世話ができたらそれで幸せで、そのために婚約者という立場を最大限に利用させていただいているだけですから! 当然、愛してほしいだなんて申しません! その辺はきちんとわきまえております。それに旦那様、わたくしとの結婚が出世の……魔術師団に残る条件なのでしょう?」

「うっ……」


 なるほど、クラルテはすべての事情を知っていたらしい。そのうえで、それでも構わないと……彼女自身がその状況を利用している、と言っているのだ。


(天真爛漫で純粋無垢なお嬢様というわけではない、ということか)


 持ちつ持たれつ。互いにとってデメリットがないのだ。一旦は受け入れて然るべきじゃなかろうか? 
 そもそも俺が婚約を拒否しようとしていたのだって、相手を愛せる見込みがないこと、その罪悪感が嫌なだけだったのだし。


「……好きにしろ」

「はい、好きにさせていただきますっ!」


 嬉しそうなクラルテの横顔を眺めつつ、俺は小さくため息をついた。
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