【短編】メルティングギフト
ポロッと涙が頬を伝う。


生徒指導の先生は、よっぽどのことがない限りは大丈夫だと言っていた。

だけど、最近の自分の言動を振り返ると、また何かやらかすんじゃないかって。

仮に受かったとしても、私のせいで学校のイメージが悪くなってしまったらって。

もしそうなったら、後輩に示しがつかない上に、久代くんにも堂々と顔向けできない。


大好きなのに。今は一緒にいるのが辛いよ……っ。



「出来がいい後輩がいると不安だよね。俺も身近にいるからすごくわかる」

「っ、先生も……?」

「うん。俺は主に英語担当なんだけど、その人はほぼ全教科担当してて。同性だから妙にライバル意識しちゃってさ」



そう話しながら先生はシャツのポケットからハンカチを取り出した。



「生徒取られたらどうしようって不安になってたんだけど、『時永先生の授業が好き、わかりやすいって言ってる子、たくさんいるから大丈夫』って先輩に言われて。一瞬で元気出た」



笑顔を浮かべて涙を優しく拭ってくれた。

時永先生にも辛い過去があったんだ。



「大丈夫。那須さん、1年の時よりも成績上がってるから。校内選考を勝ち抜いたのも、今までの頑張りが認められたからであって。頼りないなんてこと、全然ないから」

「ううう……っ、先生ありがとうぅぅっ」



これが大人の包容力なのか、涙腺に加えて鼻腺までもが崩壊。

ハンカチを借り、びしょびしょになった顔を拭きながら帰ったのだった。
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