愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
❇︎❇︎❇︎❇︎
トントントントン。
包丁でリズミカルに野菜を切る。もう家事も板についたもの。
ふうっ、と額に浮いた汗を手首で拭い虫の声を意識する。
シャンガがゼウラに拾われたのは夏だった。もう、どれくらいの時が経ったか。
成人からしばらくは数えていたが、最近数えない。
「のう、シャンガ。幾つになった」
かかった声に、ゼウラも同じように時の流れを思ったか、とおかしくなった。
「いくつって、師匠に拾われたのがたぶん二つってことだから、だいたい、二十七になりました。もう、師匠と過ごして二十五年も経つのですね」
ゼウラはシャンガにとって「出会った時はすでにおじいちゃんで、そこからいままでずっと同じおじいちゃん」な人だ。しかし、最近昔より一回り小さくなったと思う。
「シャンガ、村のものと連れ添ったりはしないのか。儂のことなら気にするなと、ずっと言っておるのに」
「だからっ、連れ合いをつくったりしませんて。私の……その辺の恋? の感覚は壊れてしまっているんでしょ。ピンとくる相手はいないんです」
「じゃがな、もう恋とかいうより現実的な生活を見てはどうじゃ……お主は、もう二十七なんじゃ。村のほとんどの女は片付いている年頃じゃろう? それが、いつまでここで老いぼれの世話をするのじゃ」
トン、と人参を転がしてしまい切り損なった。
ゼウラが、シャンガのことを結婚して家を出て当たり前と言うようで。嫌だった。
「私、結婚なんかしたくない。このままでいい……ずっと家でゼウラ師匠といます」
「……儂は老いたといつもいうているじゃろう。あと、どれくらいおるか。終い間際にはお主の手を煩わせるじゃろう、そんなことに付き合うことはないお主の幸せを──」
「師匠といます! どんなことだろうと付き合います。だから、ここに置いていて。私はここしか、居場所はないです」
必死の訴えに、ゼウラはうなずくともうなだれるともわからないが、首を下げた。
諭すことを諦めたらしい。今日のところは。
それが、ゼウラが村を出奔して穏やかな生活が崩壊する、半年前のことだ。
トントントントン。
包丁でリズミカルに野菜を切る。もう家事も板についたもの。
ふうっ、と額に浮いた汗を手首で拭い虫の声を意識する。
シャンガがゼウラに拾われたのは夏だった。もう、どれくらいの時が経ったか。
成人からしばらくは数えていたが、最近数えない。
「のう、シャンガ。幾つになった」
かかった声に、ゼウラも同じように時の流れを思ったか、とおかしくなった。
「いくつって、師匠に拾われたのがたぶん二つってことだから、だいたい、二十七になりました。もう、師匠と過ごして二十五年も経つのですね」
ゼウラはシャンガにとって「出会った時はすでにおじいちゃんで、そこからいままでずっと同じおじいちゃん」な人だ。しかし、最近昔より一回り小さくなったと思う。
「シャンガ、村のものと連れ添ったりはしないのか。儂のことなら気にするなと、ずっと言っておるのに」
「だからっ、連れ合いをつくったりしませんて。私の……その辺の恋? の感覚は壊れてしまっているんでしょ。ピンとくる相手はいないんです」
「じゃがな、もう恋とかいうより現実的な生活を見てはどうじゃ……お主は、もう二十七なんじゃ。村のほとんどの女は片付いている年頃じゃろう? それが、いつまでここで老いぼれの世話をするのじゃ」
トン、と人参を転がしてしまい切り損なった。
ゼウラが、シャンガのことを結婚して家を出て当たり前と言うようで。嫌だった。
「私、結婚なんかしたくない。このままでいい……ずっと家でゼウラ師匠といます」
「……儂は老いたといつもいうているじゃろう。あと、どれくらいおるか。終い間際にはお主の手を煩わせるじゃろう、そんなことに付き合うことはないお主の幸せを──」
「師匠といます! どんなことだろうと付き合います。だから、ここに置いていて。私はここしか、居場所はないです」
必死の訴えに、ゼウラはうなずくともうなだれるともわからないが、首を下げた。
諭すことを諦めたらしい。今日のところは。
それが、ゼウラが村を出奔して穏やかな生活が崩壊する、半年前のことだ。