恋は秘密のその先に
「真里亜、社食行こうよ」
「はい!」

 先輩達に声をかけられ、真里亜は久しぶりにおしゃべりしながらランチタイムを過ごす。

「ね、どうだった? 副社長の秘書は」
「えっと、ひと言で言うと『鬼軍曹の下僕』ですね」

 ゴホッと先輩達は一斉にむせ返った。

「何それ?! 下僕って、あはは! おもしろーい」
「ちっともおもしろくないですよ」

 (今だってやり合ってる最中だし。もう、本当に頭が固くて偉そうなんだから!)

 真里亜は憮然としながら、チャーハンをパクパクと口に運ぶ。

「ね、でもさ。あれは何だったの? 先週の木曜日の」
「そうそう! あれ。びっくりしたよねー」

 先輩達の言葉に、真里亜は、ん?と首をひねる。

「あれって何のことですか?」
「ほら、うちのビルに不審者が侵入して、警報ベルが鳴ったでしょ? 何だろうって思ってたら、いきなり聞こえてきた『真里亜!』って声」
「そう! 人事部のみんなでドキッとしたよね。あの声ってもしかして副社長?」

 あ、それは、その…と真里亜は視線を落とす。

 (そう言えばそうだった。あの時、副社長にそう呼ばれたっけ)

「ねえ、いつも副社長に真里亜って呼び捨てにされてたの?」
「いえいえ、まさかそんな。おい、とか、お前って呼ばれてましたよ。多分、私の名字ご存知ないかも」
「じゃあなんで下の名前は知ってたの?」
「それは、秘書課の方が私を下の名前で呼んでたから、それで覚えていたんだと……」
「えー、なになに?その秘書課の人って男の人?」
「え、はい。そうです」

 先輩達は、いやーん!と身悶える。

「真里亜、男の人に囲まれて下の名前で呼ばれる生活してたのね。なんか羨ましい!」
「想像しちゃうよねー。逆ハーレム状態?」
「そんなんじゃないですって」

 真里亜は口を尖らせながら否定する。

 そしてチャーハンを食べ終わると、トレーを手に席を立った。

「先輩。私、先に仕事に戻りますね」
「え? まだお昼休み30分以上あるわよ?」
「はい。溜まってる仕事を片付けたくて。先輩達はゆっくりしてきてください」

 そう言い残し、真里亜は誰もいないガランとしたオフィスに戻った。
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