不器用な神野くんの一途な溺愛
俺が初めて「小野宮莉子」という人物を知ったのは、入学式より前だ。


入学式を三日後に控えた、ある日。


自分の部屋にいたところに、スマホを片手に持った母親が、もう一方の手で扉をノックした。


『斗真ーちょっといい?』

『あんだよ』

『高校からね、電話なの。あんたにって』

『は? 高校から?』


まだ入学してねーのに?

意味が分からないまま、母親のスマホを受け取る。母親の方が焦っているのか、少しかすめた手が、ジットリ汗をかいていた。

触れた所を自分の服でなすりながら、電話に応える。


『もしもし』

『あぁ、神野くん! 神野斗真くんだね⁉』

『はぁ……、そうですけど……』


電話口のおじさん(後に知ったが、教頭だったらしい)は、いやに慌てた声をしていた。
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