追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 人間の"好き"という感情は侮れない。
 はまればそこには大きな影響力が生まれる。

「大衆には大衆の好む"ストーリー"というものが存在します」

 リアルより、嘘の混じったリアリティの方が面白い。
 だが、そうだとしてもまず目に触れない事には"好き"になりようがない。

「生徒会であれば、惹きつけられるような"カリスマ性"と身近な存在としての"共感性"。私ならこの2つをバランスよく切り取って画像や映像で配信しますね」

 この世界ではまだテレビ中継のような人物をそのまま配信できる存在がなく、当然SNSも存在しない。
 映像記録水晶(カメラ)ですら、まだこの世にできて6年。
 価格が高いので映像記録水晶(カメラ)本体は民間まで普及しているとは言いがたい状況だけど、人気の俳優やロア様のような王族の肖像画(ポートレート)はかなり売れている。

「そして信者(ファン)を増やしますわ。沼落ち確、腐女子生産。課金勢向けにアイテム開発して経済効果。ふふ、超楽しい」

 ドンっと盤上の領地を半分以上白色に染めて私は微笑む。

「どんなことでも貫き通せば"正義(シロ)"ですわ」

 嘘つきはいけない?
 いいえ、嘘だって、本当に変えてしまえばいいだけだわ。それが私の信条です、と私は言葉を締めくくる。

「なるほど。リティカは面白い手を思いつくね。ま、最後まで気を抜いちゃダメだけど」

 トンとロア様が一手を置いた瞬間に白色の盤面が黒に変わる。

「え、えーー? 嘘、どんな手ですか!? コレ」

 たった一手で修復不可能に追い込まれ、私の負けが確定する。

「むぅ、絶対勝てたと思ったのに」

「はは、正直危なかった。リティカの性格把握してなかったら勝てなかったな」

 トンっとロア様は勝敗を分けた一手を指差す。
 それは私がこの戦法を取るために切り捨てた分岐点。

「大胆な手を講じるくせに素直で少し抜けてる。そんなとこは昔から全然変わってない」

 クスッと笑ったロア様に、

「……バカにしてます?」

 拗ねた口調で尋ねながら私は駒を回収し始める。

「いや? 可愛いと思ってる。コレって決めたらトコトンやり抜くとこも、駆け引きなく一直線に飛び込むとこも」

 可愛い、と言われて私は駒を盛大に落とす。
 急に何を言い出すの、深夜のテンション怖っ。とロア様を見れば、

「ところで、リティカ。今日一枚も写真を撮らないのは、俺が可愛くないから?」

 揶揄うような藍色の瞳と目が合った。

「あ、いや。単純に映像記録水晶(カメラ)置いて来ちゃっただけで。明日には、多分お屋敷に戻ります……し」
 
 じっと私を見てくるロア様から目を離せず、私は改めてロア様を見る。
 いつもよりだいぶ着崩したラフな格好で、ここ最近のように張り詰めた様子もなく随分リラックスしている。
 所作が綺麗なので隠しきれない育ちの良さはあるけれど、こうして見るとまるで年相応の男の子に見える。

「そっか、俺に対して興味がなくなったのかと思ってちょっと心配した」

 私の落とした駒を拾い上げ、箱にしまいながらロア様はニコニコと笑う。
 その笑顔はいつも通りキラキラしていて、可愛いはずなのに、何故かいつもとは違う気がして私は思わず目を逸らす。
 なんだコレ。心臓が痛い。

「そ、そう言えば。なんで今日は一人称ずっと"俺"なんですか!?」

 話題を変えようとして私は踏み抜いてはいけない何かを踏んだことを知る。

「ん、言ったでしょ? 監視も護衛置いてきて完全にプライベートだ、って」

 気づけば近い距離に整った推しの顔があって、心臓がありえない速度で跳ねる。
 ロア様が基本的に私に対して一線引いていたのは知っているし、公私を分ける際に一人称が変わる事も何となく知ってはいたけれど。
 でも、私に対してはいつもただただ可愛い王子様で。
 アレ? この人は本当に私の可愛い婚約者様? と混乱する私に。

「ごめん、大丈夫だから。そんなに警戒しないで」

 揶揄いすぎたと肩を震わせるロア様はいつもみたいにふわりと笑って、私の髪を優しく撫でた。
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