追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

55.悪役令嬢の恩返し。

 神殿、というよりも大神官を相手に行動を起こすならまずは情報を収集しなくては、と思って私が足を踏み入れたのは魔法省。
 ここがおそらく一番神殿と対立している。
 お母様が3つ目の星を獲得され、時空を紡ぐ魔術師という二つ名でそれまでの魔法と人との生活様式を大きく変えたその時から。
 どんな些細な手がかりでも構わないから突破口が欲しい。そう思っていた私の目に入ったのは死屍累々という表現がぴったりな魔術師の皆様。

「リティカ、頼む。公爵を説得してくれ!!」

 私を目に止めた師匠が私の両肩をガッツリ掴んで開口一番にそう言った。

「えーっと、私の試験期間中に一体何が」

 疲労が濃く顔に滲む師匠に驚きつつ、とりあえず状況を確認すれば、

「あんのクソ長官このクソ忙しい時期に全部丸投げして辞職しやがった。俺は研究職だぞ!? 俺に魔法省のトップが務まるわけねぇだろうが!!!!」

 せめてセザールの卒業まで待てよと師匠がめちゃくちゃお怒りな様子でそう叫びながら書類を寄越す。
 仕方なく斜め読みすれば、2つ星獲得した事だし魔法省あげるからあとよろしくという内容だった。
 わぁーお、お父様ったら文句のつけようがないくらい一つの不備もなく綺麗に手続きして退職してるわ。
 これは止められないわねと苦笑するしかない。

「……んーつまりうちのお父様今無職なんですね」

 まぁ働かなくても生きていけるくらいの財力あるし、前線退いて領地経営に尽力するって手も悪くないのだろうけれど。
 数日管理者がいないだけでこの状態。
 これは由々しき事態だ。

「諦めて師匠が魔法省長官のお仕事をしては? 最高権力者ですよ?」

御免蒙る(ごめんこうむる)! ただの人間があの怪物の後を継げるとでも!? あの人の仕事量と処理速度尋常じゃねぇんだよ」

 俺は定時で家に帰りたいとすっかり家庭人になってしまった師匠は全力拒否の姿勢を崩さない。

「いえ、お父様も人間ですけれど。というか、お父様が魔法省の長官をされる前はどうしていたのです?」

 確かお父様が本格的に魔法省務めになったのはお母様が亡くなられた後だ。
 それまでお父様は陛下の補佐をしつつ宰相職についていた。それは魔術師の名家であり、代々魔法省を取り仕切ってきたメルティー公爵家の人間としては異例中の異例だったと記憶している。

「……その前はアリシア様が魔法省の長官だったんだよ。けど、あの人管理能力ないから実質的な実務は全部公爵様が担ってた」

 カーティス助けてぇーと可愛く抱きつくお母様がありありと想像できた私は軽く目眩を覚えて額を抑える。
 やる。
 お母様なら絶対やる。
 そしてお父様は仕方ないなぁとかいって全部受け入れやってあげていたに違いない。

「……妻に激甘ですか。ていうか宰相職の片手間で魔法省の長官代行って、お父様化け物ですか」

 まぁ、そんなお父様だから王位継承から一番遠かった陛下を即位させられたんだろうけど。
 お父様が何を考えていらっしゃるのか、実はいまいち私も読みきれない。
 が、とりあえず目の前の悲惨な状況をなんとかしなければ神殿の情報収集どころではないことだけは確かだ。

「で、私にどうしろと」

 ため息混じりに師匠に尋ねれば、

「公爵を説得して連れ帰って欲しい。ていうか、王城にいるくらいならこっち来いよ! 目と鼻の先じゃねぇか!!」

 師匠の指さす先を見て、あっちはあっちで大変なことになってそうだなぁとため息をついた私は。

「お父様の目的がなんであれ、今すぐ連れ戻すのは無理だと思いますよ」

 そう言って首を振る。

「リティカのお願いでもか?」

「私にそこまでの影響力はございません。お父様は確かに私にベタ甘ですけど、公私は分けるタイプですよ」

 悲壮感漂う師匠に事実を述べる。
 
「……どうすんだ、コレ」

 やってられるか、とつぶやく師匠に、

「どうもこうも、お父様が退かれた以上現時点で責任者は師匠ですねぇ」

 私は制服の上から白衣を纏い髪をくるりとまとめると、

「できなければできる人間に投げちゃえばいいのです。お母様みたいに、ね?」

 お父様の辞任と師匠の魔法省最高責任者任命の書類を師匠に返し、

「とりあえず、時間を稼いで差し上げます。全部書類持ってきてください」

 たまには恩返ししてあげます。
 そう言って笑った私は執務室に向かって歩き出した。
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