追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「わぁぁ」

 まるで、お兄様が精霊祭の日に会場で紡いだ魔法みたい。
 キラキラしていて美しい魔法に見惚れていると、

「私が死ぬことは、変えようのない運命だった」

 お母様は静かに言葉を紡ぎ始めた。

「それは、神託に従わなかったから?」

 私の言葉を聞いて、口元に綺麗な弧を描いたお母様は、

「ここまで辿り着けたリティカなら、もう分かっているでしょう? あの男にそんな力などはなく、加護石自体とっくの昔に消滅してしまっている、と」

 様々な記録から点と点をつなぎ導き出した私の結論と同じ内容を口にする。
 どこから話しましょうか、と私と同じ空色の瞳を瞬かせたお母様は、

「私はかつて隣国アルカラントからここクレティア王国に亡命しているの。まぁ表向きは不敬罪による追放で貴族籍からも抹消されているみたい」

 少し寂しそうに過去を明かす。
 私はお母様を見ながら静かに頷く。
 私のお母様はアルカラントの出身だ、と気づいたのは自分の珍しい髪色からだった。
 私のコスモスピンクの髪はここクレティア王国ではまず見ない。
 お母様が発展させた我が国の魔法文化を探っていくうちに、それまでクレティア王国で主流だった精霊契約と言われる魔法の使い方とは全く異なる方法である事とお母様の提唱した方法がこの国に馴染むたびに"精霊信仰"が徐々に人々の心から離れていったという事を知った。
 見た事も聞いた事もない存在にお伺いを立てる複雑な術式よりも、明確で簡単な術式の方が普段の生活において使い勝手が良かったのだ。
 それが暮らしを豊かで便利にするのなら、尚更。
 クレティア王国は三国と接している国で、現在は比較的どの国とも良好。
 その中でよりお母様の提唱した魔法が最も馴染まなそうな国。そこがお母様の出身国だと推察した私は、そこから先はアルカラントにクロエを留学させて探ってもらうことにした。
 私が託した情報を元に辿り着いたお母様の生家。お母様を他国に逃し、知らぬ存ぜぬで通せるのならそれなりに力のある家柄だろうとは踏んでいたけれど、まさか3代前の王弟殿下の家系だとは思わなかった。
 一代限りの大公家。その子どもは伯爵位を継ぐことになるアルカラント。
 お母様はとある伯爵家から名前を消されていた。

「それにしても失礼だと思わない? 私が望んで出て行ったのに"追放"だなんて。やりたい放題やってたし、やらかした痕跡消し忘れちゃったからしかたないんだけど」

 ぷぅと子どもみたいに頬を膨らませるお母様。以前ロア様に"大胆な手を講じるくせに素直で少し抜けてる"なんて言われたけれど、その通りかもしれないとお母様との共通点を見つけて私は苦笑する。

「でも、私には分からなかったのです。確かにお母様の提唱する魔法は保守的で精霊信仰が深く生活に根付いているアルカラントでは馴染まなかったかもしれません。ですが、お母様が本当にただのしがない魔術師で一貴族令嬢なのだとしたら、家門の力を使ってまでお母様を逃亡させる必要はなかったでしょう」
 
 魔術師として提唱した新しい魔法が国に受け入れられなかった。
 それだけならば、隣国に渡るにしてもお母様が家との繋がりを絶ってまで国から逃亡する必要はなかったはずだ。
 クロエの調査や私が確認した魔法省や公爵家の記録でも、その理由には残念ながらたどり着くことが出来なかった。
 だから私は足りないパーツを得るために最後の手段に出た。

『"また、夢で会いましょう。アリシアより愛を込めて"』

 私に残された手紙に綴られた謎のメッセージ。もし、あれ自体がお母様の紡いだ魔法なのだとしたら、私がここ一番のピンチに陥れば発動するかもしれない。
 そうして私の読み通り、大神官()の手に落ち昏睡した私の夢にお母様は現れた。
 私的に一番の謎。

『どうしてエタラブ(乙女ゲーム)の悪役令嬢でしかない私に、課金ルートも含めた様々なストーリーを観ることができるのか?』

 その答えを確かめたくて、私は今こうしてここにいる。
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