追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「うぅ、師匠が優しくて涙出そう。お兄様とセットでツンデレ師弟のスチル回収したい」

「……リティカ。お前、実は全く反省してないだろ」

 バカ弟子がと私の頭に軽く手刀が落ちたのは言うまでもない。

「リティカが本当にスチルに収めたいのは、俺じゃないだろうが」

「……そんなことは」

「その証拠にあれほど手放さなかった映像記録水晶、この半年一度も触ってないだろうが」

 そう言われて私は自分の指先に視線を落とす。
 師匠が言う通り、私はこの半年一度も写真を撮っていない。
 それどころかすでに写真にしたアルバムすらめくっていない。
 初めの頃は魔力が制御できず映像記録水晶を壊してしまいそうだったから。
 魔力値が落ち着いてきた今でも触れない理由。それは、私が一番よくわかっている。

「リティカ。大事なモノは自分で繋いでおけ。意地を張っても何も手に入らない」

 真面目な口調でそう言った師匠の精悍な顔面を眺めながら。

「ちっ、同担拒否のコミュ障が」

 私は盛大に舌打ちをした。

「ああ゛!? いきなり意味不明な悪口たたくんじゃねぇよ」

 イラッとしたように言い返す師匠にため息をついた私は。

「私、こちら(恋愛)方面で師匠の助言は2度聞き入れないと決めています。と言うよりも、エリィ様という神がかって好意的に師匠のセリフを解釈してくれる女神に捨てられたら人生終わりな師匠の助言を1度でも素直に聞いたのがそもそもの間違いでしたわ」

 ケッと私はやさぐれた口調で師匠をディスる。

「はぁ!? 何をわけの分からんことを」

 などと宣う師匠を私はきっと睨みつけ、

「何が"男心"よ!? 適当なこと言ってくれちゃって。ほんっと、師匠って魔法以外の才能皆無ですよね。駆け引きも交渉もド下手で、対人能力ゼロどころかマイナスだし? そんなだから師匠の下では碌に弟子育たないんですよ!!」

 忘れたとは言わさないわと、心の底から師匠を罵る。

『男がこっそり花を贈りたい理由なんて、一つしかねぇんだよ』

 師匠があんなことを言いさえしなければ。
 私はロア様を追いかけたりしなかった。

「師匠のバーカ!」

「……悪口が直球になったな」

『ヒトのモノには興味がない』

 ずっと、ずっと、自分にそう言い聞かせて、目を逸らしていたのに。
 私はあの時"期待"してしまったのだ。
 "もしかしたら"って。

「師匠のせいですよ、全部」
 
 私は忘れようとした失恋の痛みを思い出して、きゅっと唇を噛む。

「師匠が余計な事言って焚き付けなければっ!!」

 もしかしたら、ゲームとは違ってロア様がリティカ(わたくし)を望んでくれる未来があるんじゃないか、って。
 そんなことを思わなければ。

「素直に……祝福、できたの! ロア様の結婚式の時友人枠でスピーチだってできたし、心置きなくウェディングエンドのスチル回収しまくってフラワーシャワーだって参加できたのにっ!!」

 私はいつのまにかロア様に恋をしていた。
 そんな自分の気持ちに気づいてしまったら、ヒロインの応援なんてもう無理だ。
 そうしたらもう、あとはなんの情報も入って来ないくらい遠くに逃げるしかないじゃないか!
 そうでなければ、本当に嫉妬に狂った悪役令嬢になってしまう。
 そんなの、誰も幸せにならないのに。

「師匠が余計なこと言わなければ、こんな気持ち、知らずに済んだのにっ。師匠のばかぁーーーー!!」

 そう叫んだ私に。

「待った。何で俺は自分の結婚式でリティカから友人枠でスピーチされたあげくフラワーシャワー投げつけられなきゃなんないの?」

 とても聞き覚えのある声が耳に届く。
 振り返った私の目に映ったのは、輝くような金色の髪とサファイアみたいな濃紺の瞳。

「へ、えっ!? はっ? な、えええーーー?」

 驚き過ぎて語彙力が消失した私を前に、クスッと笑ったロア様は。

「手間をかけさせたな、イーシス」

「別にこれくらいはどうということもありません。が、しっかり話し合ってください」

 リティカが暴走するのはいつもの事なんでとこれみよがしにため息をついた師匠は、

「じゃ、俺帰るわ」

「は? えっ、ちょ、ま」

「逃げんなよ、リティカ」

 この状況を説明すらせずに本当に帰って行った。
 いきなりロア様と2人きりにされて呆然と立ち尽くす私にできたのは、師匠のドSーーーー!! と叫ぶことだけだった。
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