追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
今まで積み重ねたモノに比べれば、全部を放棄し愚者を演じる事も、わがままなリティカの相手もそれほど難しくはなかった。
リティカは裏も表もなく、ただ素直に自分の欲望に忠実なだけ。
好きも嫌いもはっきりしていて、譲らないその一貫性のある姿勢には感心すら覚える。
カーティスを真似て彼女には愛情という嘘の下、なんでも与えた。
そうしていつか、ドロドロに甘やかされたその先で俺の事も巻き込んで破滅してくれればいい。
そう思っていた。
……はず、だった。
『ロア様! 安心してください。ロア様の事は、必ず私がお守りいたしますので』
占いをしたいとせがむリティカに付き合った以外は、何も変わらないいつもの親睦会。
彼女は一体、それで何を見たのだろうか?
ヒトが変わったかのように、その日からリティカは勉学に励み出した。
その上何故か俺にまで勉強だの運動だのをさせようとする。
リティカが持ってくる範囲はすでに履修済みだし、騎士に混ざって訓練など目立つ事この上ない。
初めはどうせリティカのことだからすぐ飽きるだろうと適当に付き合っていたのだが、彼女の本気度は予想以上だった。
誘惑しても遊びにのらず、体調不良を訴えても、仮病だと見抜いて追いかけてくる。
リティカはこうと決めたら一直線なのだ。そこには駆け引きなど、一切なくただ真っ直ぐ飛び込んでくる。
勘弁して欲しい。
俺は目立ちたくないし、やれば大抵のことはなんでもできてしまうので、愚者を演じられなくなる。
「はぁ、とんだ誤算だ」
リティカの追い回しから逃げ切って、ため息をついた俺を見て、
「あらあら、珍しくロアが苦戦しているわね」
母上は楽しそうに笑う。
「……楽しそうですね、母上」
「そりゃね。大概そつなくこなすあなたが、たった1人の女の子にいいように振り回されているなんて子どもらしい面を見て、母親として微笑ましく思わないわけがないじゃない」
心底おかしそうに笑う母上を見て、つい眉間に皺が寄る。
当然、母上は俺が何もできないフリをしているのを知っているし、その理由もご存知だ。
だと言うのに、たった1人の息子に対して助け舟の1つも出してくれない。
「不満そうね、ロア。でも残念。親友の娘であるリティカは血はつながっていなくても、私にとっては娘みたいなものなのよ。代母だし」
だからどちらに対しても肩入れはしないとおいしそうにミルクティーを口にしてそう宣言する。
「はぁ、もう。そんなに王妃になりたいなら、いっそカーティスみたいに勝ち馬を見つけてそいつに乗れば良いのに」
俺じゃなくてさぁ、と自分で彼女を婚約者に選んだことを棚に上げ、愚痴るようにそう漏らした俺に、
「当人同士にその意思があるのなら、婚約の白紙撤回手伝ってあげましょうか?」
母上は静かにそう尋ねる。
「そんな事」
できるわけがない。だってこれは国王である陛下の御裁可が通った国による契約だ。
何よりリティカに激甘のカーティスが彼女の経歴に傷がつく事を許すわけがない。
「できるわよ」
だが、母上はあっさりと否定する。
「リティカが望めば通らない事はないでしょう。元々カーティスはリティカを手放したくなかったのだし」
リティカが婚約しただけで寝込んで3日も出勤拒否する困ったさんよ? と母上は笑う。
「カーティスの事だもの。陛下の意向と本人の希望で折れただけだし、これ幸いと無効を主張するわ」
確かに父上もカーティスとわざわざ喧嘩などしたくもないだろうし、カーティスを抱き込めば意外と簡単に撤回できる気がする。
俺が王太子にならないのだと知れば、きっとリティカは俺から離れていく。彼女はなんでも一番が好きだから。
「……ありかもしれない」
「そう。じゃ、早速リティカと話しましょ。いつまでもこんなやる気のない子に捕まっていたら、リティカが可哀想だし」
「俺が悪いのかよ」
「当たり前でしょう。リティカのやる気に水を差して足を引っ張っているのだから」
私、素直で可愛い娘が欲しかったのよねと母上は可愛くない息子にそう言って、早々に席を立った。
相変わらず、思い立ったらすぐのヒトだ。
リティカは裏も表もなく、ただ素直に自分の欲望に忠実なだけ。
好きも嫌いもはっきりしていて、譲らないその一貫性のある姿勢には感心すら覚える。
カーティスを真似て彼女には愛情という嘘の下、なんでも与えた。
そうしていつか、ドロドロに甘やかされたその先で俺の事も巻き込んで破滅してくれればいい。
そう思っていた。
……はず、だった。
『ロア様! 安心してください。ロア様の事は、必ず私がお守りいたしますので』
占いをしたいとせがむリティカに付き合った以外は、何も変わらないいつもの親睦会。
彼女は一体、それで何を見たのだろうか?
ヒトが変わったかのように、その日からリティカは勉学に励み出した。
その上何故か俺にまで勉強だの運動だのをさせようとする。
リティカが持ってくる範囲はすでに履修済みだし、騎士に混ざって訓練など目立つ事この上ない。
初めはどうせリティカのことだからすぐ飽きるだろうと適当に付き合っていたのだが、彼女の本気度は予想以上だった。
誘惑しても遊びにのらず、体調不良を訴えても、仮病だと見抜いて追いかけてくる。
リティカはこうと決めたら一直線なのだ。そこには駆け引きなど、一切なくただ真っ直ぐ飛び込んでくる。
勘弁して欲しい。
俺は目立ちたくないし、やれば大抵のことはなんでもできてしまうので、愚者を演じられなくなる。
「はぁ、とんだ誤算だ」
リティカの追い回しから逃げ切って、ため息をついた俺を見て、
「あらあら、珍しくロアが苦戦しているわね」
母上は楽しそうに笑う。
「……楽しそうですね、母上」
「そりゃね。大概そつなくこなすあなたが、たった1人の女の子にいいように振り回されているなんて子どもらしい面を見て、母親として微笑ましく思わないわけがないじゃない」
心底おかしそうに笑う母上を見て、つい眉間に皺が寄る。
当然、母上は俺が何もできないフリをしているのを知っているし、その理由もご存知だ。
だと言うのに、たった1人の息子に対して助け舟の1つも出してくれない。
「不満そうね、ロア。でも残念。親友の娘であるリティカは血はつながっていなくても、私にとっては娘みたいなものなのよ。代母だし」
だからどちらに対しても肩入れはしないとおいしそうにミルクティーを口にしてそう宣言する。
「はぁ、もう。そんなに王妃になりたいなら、いっそカーティスみたいに勝ち馬を見つけてそいつに乗れば良いのに」
俺じゃなくてさぁ、と自分で彼女を婚約者に選んだことを棚に上げ、愚痴るようにそう漏らした俺に、
「当人同士にその意思があるのなら、婚約の白紙撤回手伝ってあげましょうか?」
母上は静かにそう尋ねる。
「そんな事」
できるわけがない。だってこれは国王である陛下の御裁可が通った国による契約だ。
何よりリティカに激甘のカーティスが彼女の経歴に傷がつく事を許すわけがない。
「できるわよ」
だが、母上はあっさりと否定する。
「リティカが望めば通らない事はないでしょう。元々カーティスはリティカを手放したくなかったのだし」
リティカが婚約しただけで寝込んで3日も出勤拒否する困ったさんよ? と母上は笑う。
「カーティスの事だもの。陛下の意向と本人の希望で折れただけだし、これ幸いと無効を主張するわ」
確かに父上もカーティスとわざわざ喧嘩などしたくもないだろうし、カーティスを抱き込めば意外と簡単に撤回できる気がする。
俺が王太子にならないのだと知れば、きっとリティカは俺から離れていく。彼女はなんでも一番が好きだから。
「……ありかもしれない」
「そう。じゃ、早速リティカと話しましょ。いつまでもこんなやる気のない子に捕まっていたら、リティカが可哀想だし」
「俺が悪いのかよ」
「当たり前でしょう。リティカのやる気に水を差して足を引っ張っているのだから」
私、素直で可愛い娘が欲しかったのよねと母上は可愛くない息子にそう言って、早々に席を立った。
相変わらず、思い立ったらすぐのヒトだ。