追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「いらないなら返せ」

「え、嘘! いる! いります!!」

 私は慌てて師匠からもらったバレッタを髪に留める。

「どうです? 似合いますか?」

「ああ。子どもらしくていいんじゃないか? お前魔法省に来るようになってからこういうの一切つけなくなっただろ?」

 言われて初めてそうかもしれない、と気づく。
 少し前(前世を思い出す)までの私はロア様に気に入られたくて着飾る事に一生懸命だったのだけれど、最高の悪役令嬢を目指して修行するのに華美なドレスや装飾品は邪魔であまり執着しなくなった。
 勿論、公爵令嬢として登城する時や王妃教育を受ける時は別だけど。

「師匠、ありがとうございます。エリィ様にもお礼をお伝えください」

 コレ選んだのエリィ様でしょ? と揶揄うように笑う私の視線を受け流し、

「それは本人に言ってやってくれ」

 師匠がそういったタイミングで軽いノックの後にすぐさまドアが開く。

「リティー様、お誕生日おめでとうございます!!」

 これお誕生日のケーキですと勢いよく私に差し入れしてくれたのは、師匠の奥様であるエリーゼ様ことエリィ様。
 わぁーと感嘆の声を上げて私は白い箱を受け取る。
 エリィ様に断って中を見れば私の好物のアップルパイが入っていた。

「公爵令嬢にお渡しするのに私の手製だなんてお恥ずかしいのだけれど」

「エリィ様のお手製?」

「前にアップルパイがお好きだって言っていたでしょう? 一生懸命練習しました!」

 焼きたてを届けたくて作ってたら遅くなっちゃってと笑うエリィ様。
 エリィ様は伯爵家のご出身だ。普通貴族令嬢は自分で料理などしない。宮廷魔術師である師匠のうちには使用人だって沢山いる。
 頼めばいくらでも手に入るのに、わざわざコレを私のために作ってくれた。
 貴族にしては珍しく魔力適性がないエリィ様が、魔道具だらけのキッチンでケーキを焼くなんてきっと大変だったろうに。

「わ、わっ、リティー様、どうしました?」

「う、嬉し……すっごく、嬉しくて。こんなふうに祝われた事、なかったからぁ」

 受け取った箱はまだ温かくて、これが私の事を思って私のためだけに作られたモノなのだと実感したら急にポロポロと涙が溢れてきた。
 私はこの国唯一の公爵令嬢で、その上第一王子の婚約者だ。
 誕生日にはそれこそたくさんのプレゼントが届く。だけど、そのほとんどは私個人を純粋に祝っているものではないと私はもう知っている。
 だからエリィ様のお気持ちが本当に嬉しかったのだ。

「リティー様」

「エリィ様、師匠も本当にありがとうございます」

 バレッタも嬉しいですと泣きながら笑った私の頭をエリィ様は優しく撫でる。

「本当に、お誕生日おめでとうございます」

 いい子いい子と子どもみたいに頭を撫でられた私はまた泣いてしまったけれど、9歳になったばかりの今日くらいは素直に子どもである事に甘んじようと思う。

「リティー様は本当に良い子ですね。私もリティー様のような素直で可愛い女の子が欲しいです」

 泣き止んだ私にふふっと笑ったエリィ様は、そっと自身のお腹を撫でる。

「生まれたらリティー様もぜひ可愛いがってくださると嬉しいです」

 随分と大きくなったエリィ様のお腹。師匠がもうすぐパパになるなんて、信じられない。

「勿論です。エリィ様はきっと優しいお母様になられますね。師匠は過保護そう」

 幸せそうな2人を見て、私まで嬉しくなる。
 ロア様が勝手に自分で剣術を学び始めたみたいにそもそも私が動かなくても教師×生徒ルートは存在しないのかもしれない。
 どうして変わったのかは分からないけれど、願望も含めてそんな事を考えた。
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