追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

閑話3.自称悪役令嬢なお嬢様【中】(セドリック視点)

 お嬢の口添えもあったのだろうけれど騎士団では、頑張れば頑張った分正当に評価された。
 お嬢への反抗心もあって、俺はあっという間にのし上がり、ひと月もせずに討伐隊に駆り出されることになった。

 秋の討伐。

『自分の力量を上回るほどの何かがあったら、迷わず逃げて』

 俺の曲がったタイを直しながら囁いたお嬢の目と同じくらい透き通った青色の空を赤黒く染めたのは我が物顔で辺りを焼き尽くした黒い龍だった。
 異常種との遭遇という想定外の事態に騎士団の陣形が崩れ取り残されたが、俺の中に逃げる、という選択肢はなかった。
 俺に何かあったらお嬢は『バカじゃないの』と罵りながら泣くんだろうけど。
 でも、コレが街中で暴れて誰かが傷付いたら、きっとあのひねくれモノのお嬢は心を痛めるだろうから。

「まぁ、ちょこまかと色々仕掛けてくるお嬢と違って、的がでかいだけマシか」
 
 魔力で強引にねじ伏せる。
 それが俺にできた精一杯。

「そのまま抑えておけ」

 その緊迫した事態を前に、前線に出て優雅に笑ったのは、キラキラに輝く金糸の髪と深い藍色の目を持つこの国の第一王子、ロア・ディ・クレティア様。
 王冠のついたステッキを構えた彼は、長い詠唱を唱えるとあっという間に異常種を討伐してしまった。

「リティカがどうしてもというからカラスを貸したけど、これはまた随分面白い人材を攫って来たもんだ」

 本来なら俺の人生において言葉を交わすどころかその藍色の目に映る事さえなかったはずのその人は、

「それにしてもすごいな、お前。コレを良くここまで一人で抑え込めたな」

 俺ガンガンアイテム使いまくってようやくこの威力なんだけどと緊張感のない声でそう言うと、

「セドリック・アートだっけ。リティカの子飼い辞めてウチに就職しないか?」

 一生安泰だし、高待遇で迎えるぞと何故か王子様にスカウトされた。
 ちなみに、即座に断った。色んな人間を見てきたが、全く思考が読めない王子の浮かべるキラキラした笑顔があまりに嘘くさかったのと、お嬢の兄であるセザール様にめちゃくちゃ怒られても全く悪びれないこの王子の下につくとろくでもない事になりそうだと直感したから。
 こんな飄々とした嘘つきの婚約者なんてお嬢、苦労してるんだななどと他人ごとながらお嬢に心底同情した。
 が、お嬢に仕える以上この人との付き合いは避けられるはずもなく、現在にいたるまで腐れ縁が続いている。
< 85 / 191 >

この作品をシェア

pagetop