追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

40.悪役令嬢的、ヒロイン育成計画。

「すごい、このカードにそんな秘密がっ」

 ごはん食べ放題! と目をキラキラさせながら成績上位者特権の付与されたシルバーカードを眺めるライラちゃん。
 どうやら彼女はコレをただのカードキーと思っていたらしい。学食で提示すれば無料で食事できるが、そもそも成績上位者は上級貴族が多いので食堂を利用しない。
 特別クラスになれば学内に自室が与えられるので、執事やメイド、なんならシェフを連れてくる人もいるくらいだ。

「秘密、って学園のしおりにも明記してありますよ」

「いや、お恥ずかしながら私難しい話は3行以上読めなくて」

「よく試験通りましたわね!?」

「試験は言われた通り魔法使っただけなので。筆記はペンを転がしました」

 運は強い方なので、とどや顔で悪びれない姿勢のヒロインになんだか頭が痛くなる。
 確かに今の陛下になってからは実技重視の試験なのだけど、それで次席。
 三席以下が聞いたら卒倒しそうな話である。

「……それは、授業についていけているのですか?」

「正直、何言ってるのかさっぱりわからなくて」

 私の差し出したサンドイッチを頬張りながら、ライラちゃんは空を仰ぐと。

「ここにいる人の言葉、実はほとんど理解できないんです。なんっていうか、こう比喩? 独特の言い回しというか、そういうのさっぱり。まぁ、私のことが気に入らないってことだけはわかるんですけど」

 ライラちゃんはさらりと、そんなことを述べる。

「当然ですよね。庶民の出だし、魔法以外からっきしで、貴族のマナーとか暗黙のルールとやらも分からないし。どこそこのご令嬢だのご子息だのぶっちゃけ知らないし。その魔法にしたって全部独学だから、きっと皆さんみたいに正しく使えてないし」

「独学?」

「私、簡単な文字しか読めないんです。だから、全部誰かが唱えていた呪文を聞いて覚えました」

 本が沢山置いてある贅沢な環境に身を置いていても、ほとんどそれをいかせてないですとライラちゃんは明るく笑う。

「……マナーや挨拶はどうやって覚えたのです?」

 私は豪快にサンドイッチを食べるライラちゃんの頬についたパン屑を指で取り、彼女に尋ねる。

「わ、ごめんなさい。食べ方、あんまり綺麗じゃなくて」

「いえ、それは別に構いません。今は私しかおりませんし。それにマシェリーさんの礼はとても美しいと思いますよ。荒削りですけど」

 と私は先日見た彼女の挨拶を指してそう告げる。

「あれも見て覚えたんです。誰も教えてくれないから、合ってるかわからないんですけど。公爵令嬢にそんなふうに言われたら、ちょっと自信がつきますね」

 ふふっと楽しげに笑うライラちゃんはゲームで見た彼女と同じで、とても魅力的だ。

「どうして、この学園に入ろうと思ったのです?」

 彼女がここに来た経緯は知っている。
 ゲームの設定上希少な光魔法の使い手として認定されたヒロインが、学園に入学する。それはこの乙女ゲームの共通ストーリー。
 だけど、私は今ここにいる彼女がどんな思いでこの学園に足を踏み入れたのか知らない。

「ここを卒業できたら、仕事がもらえるって聞いたから。冒険者にでもなれたら御の字じゃないですか」

 故郷には幼い弟妹もいるので、できたらガツガツ稼ぎたい! とライラちゃんは拳を握りしめる。

「……冒険者?」

「かっこよくないですか? 自分の力で賞金稼ぎ!」

 腕力には自信があります、とヒロインとしてはいかがなものかというアピールをするライラちゃん。
 うん、彼女の腕っ節については、先ほど見たので知っている。
 確かに、木々も池の水も全部ぶっ飛ばしていた。
 冒険者になったライラちゃんを想像する。え、何それ。めちゃくちゃカッコいいのだが!? と一瞬トキメキかけた気持ちをぐっと堪える。
 いや、待て私。ヒロインが一人で冒険に繰り出してしまったら、それはもはやゲームのジャンルが変わってしまう! 乙女ゲームなんだから、ロア様と結ばれてもらわないと困るんだけど。
 と思いつつも。

「で、お腹いっぱい美味しいごはんを食べるのが夢なんです。だから3年間がんばるの!」

 目標を語るライラちゃんの翡翠色の目が輝いていて、私は思わず見惚れてしまう。
 そうか、お腹いっぱいごはん食べたいのか。お姉さんがいくらでも食べさせてあげたい。そんな事を考えつつ、私はデザートのプリンをそっと差し出した。
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