この結婚が間違っているとわかってる

「ボイスレコーダーなんて持ってどうしたの?」

そう尋ねてきた美波の手には書類があり、これからどこかの部署に届けるか、もしくは受け取った帰りで秘書課のオフィスに戻るところなのかもしれない。その途中でばったり小花と遭遇したのだろう。

「これから社内報に載せる社員紹介のインタビューに行くの」
「小花が?」
「そう。担当の先輩が体調不良で休みだから代わりに」

小花の所属部署は総務部秘書課だ。家電製品や通信機器などを手掛ける総合電機メーカーに新卒で入社して今年で五年目。社内報を作るチームに所属しているが小花が担当しているのは社員食堂について。

人気のメニューや新作などを紹介しているのだが、急きょ社員へのインタビューに駆り出された。慣れない仕事に小花は柄にもなく緊張している。

「インタビューの相手は?」

美波に尋ねられた小花は相手の顔を思い浮かべた。

「営業一課の倉橋(くらはし)さん」
「倉橋さん⁉」

名前を出した途端に美波の目がぱっと見開いて表情が輝く。

「なにそれめちゃくちゃ羨ましい。これから倉橋さんとふたりきりで話すってことだよね」
「話すっていうかインタビューね」
「私がやりたい!」

右手をしゅっと上げる美波を見て、そういえばと小花は思い出した。
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