この結婚が間違っているとわかってる
「行っちゃった」
小花が拓海とふたりで過ごせるように伊織は気を遣ってくれたのだろうか。
でも女の子と約束をしていると言っていたからもともと予定があったのかもしれない。それなのにわざわざ時間を割いて料理を教えてくれたのだ。
小花はたまに伊織のことがわからなくなる。普段はぶっきらぼうで冷たいのに、今回のように優しい一面を見せることもあるから伊織を心の底から嫌いにはなれない。
高校生の頃もそうだった――。
小花は、父の不倫相手だった義母との折り合いが悪くてお弁当を作ってもらえなかった。だからいつも購買でパンを買って食べていたけれど、それだけでは満腹にはならなかった。
そういうときは隣のクラスの伊織のところに行っていた。
『今日もそんなに食べるの?』
大きなお弁当箱におかずをいっぱい詰め込んだ伊織のお弁当を小花は覗き込む。すると『腹減るんだよ』と返された。
それにしても量が多いと思う。
『卵焼き美味しそう。ひとつちょうだい』
『あ、おい。ふざけんな』
そんなにたくさんおかずがあるのだからひとつくらい貰ってしまおうと、小花は伊織のお弁当箱から卵焼きを手に取った。
口に入れると甘い味が広がっていく。
一方の伊織はおかずを取られて怒っているのか不機嫌そうな顔で小花を見ている。けれど、気にせずに小花は卵焼きをもぐもぐと食べた。