この結婚が間違っているとわかってる
それくらい小花が好きで、彼女をよく見ていたから伊織は気付いていた。小花が拓海を好きだということを。そして自分の想いが小花には届かないということも。
叶わない恋だと諦めていたから他の女と遊んで虚しい気持ちを紛らわせた。でも伊織はひとつだけルールを決めていた。
それは一線を越えないこと。体の関係を言っているのではなくて心のことだ。
言い寄ってきた女には事前に〝相手をしてもいいけど本気にはならない〟と伝えている。それでも構わないと言った女にしか伊織は手を出さないようにしていた。
事前に約束したにも関わらず相手の女が伊織の気持ちも欲しがっていると気付いたときは、面倒になる前に関係を切る。
心まではあげない。それは小花にしか捧げないと決めているから。
「――離婚するよ」
拓海がぽつりと呟いた。
「やっぱりこんな結婚は間違ってるよな。お互いに気持ちが通じ合っていないのに夫婦を続けるべきじゃない。咲さんと離婚をしたら今のポジションから降ろされるかもしれないし、会社に居づらくなるのかもしれない。でも、ちょうどいいのかも。俺、会社を辞めてアメリカに行くよ」
「は? アメリカって……」
「大学時代の友人から誘われている仕事があるんだ。迷ってたけど受けようと思う」