この結婚が間違っているとわかってる

突然の拓海の言葉に伊織は驚く。でも、拓海なりに考えて決めたことなのだろう。これまで背負っていた重たいものをすべて落としたようなすっきりとした表情をしている。

「伊織は小花と仲良くな。小花のこと絶対に幸せにしろよ」

話はこれでおしまいだと告げるように拓海は目の前のカップの飲み物をすべて飲み干した。けれど伊織にはまだ確認したいことがある。

「兄貴は小花をどう思ってる?」

伊織の問い掛けに拓海の瞳が一瞬だけ揺れたのがわかった。手に持っていたカップをゆっくりとテーブルに置いた拓海の視線が伊織から逸れて下に向く。

「小花は大切な子だよ。俺にとっては伊織が弟で小花は妹だ。大切に思っているふたりが結婚して結ばれたんだからこんなにうれしいことはない。幸せになってほしいと思ってる」
「嘘つくなよ」

強い口調で言い返すと俯いていた拓海の視線が伊織に戻る。

兄弟だから知っている。拓海はむかしから嘘をつくときは人と目を合わせず、視線が落ちることを。

「兄貴も小花が好きだろ」

拓海がそうだったように伊織も兄である拓海の気持ちには薄々気付いていた。

拓海が小花に想いを伝えなかったのは伊織に遠慮をしたからだろう。争い事を好まない彼は大事なものでも人に譲ってしまう性格だから。
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