何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
見つめてしまう
朝、郁はすっきりとした気持ちで目覚められた。
体も心なしか昨日よりも軽い。
上体を起こして朝食も半分ほど食べられた。
肋骨の痛みも昨日より良くなっている。
だが、例え昨日より気分が良くなっても、郁の手術を受けないという気持ちは変わらなかった。
ふと時計を見る郁。
そろそろ主治医の碧の回診の時間だ。
昨日のことを思い出し、どうしても意識してしまう。
しかし、生きることを諦めた患者が、こんな感情を持ってしまうのはおかしいと、自分の気持ちを封じる。
どうせ死んでしまう運命なら、ただの患者の1人として、なるべく負担のかからないように、記憶に残らないように、彼の前から消えたいとまで願う郁だった。
「おはよう、清水さん。調子はどうかな」
「おはようございます。今日はなんだか体が少し楽な気がします。」
「それはいいね。じゃあ聴診してから、むくみがどのくらいかチェックするね。」
碧が至近距離に近づき、郁の痩せた胸に聴診器を当てる。
否応無しに、碧を見てしまう郁。
少し胸がざわつく。
先生、昨日も病室に泊まったんだろうな。白衣の変なところにシワがついてる。
あ、先生今日はメガネだ。
伏し目がちになるとわかる、濃く長いまつげ。
手入れされていない黒い髪に隠れている、きれいで彫りが深い顔立ち。
引き締まった、男性らしい筋肉質な腕。
…まだ若くてかっこいい先生は、きっとモテるだろうな。
先生の体調を心配してくれる彼女か奥さん、いないのかな…
ハッと我に帰り、そんなことを考えてしまっている自分が恥ずかしくなった。
むくみの具合を見るため、脚を触られる。
我ながら、体中、脂肪も筋肉も落ちて、ガリガリだ。
ただでさえ無かった色気が、益々なくなったな…
少し悲しくなったが、別に誰とも付き合うことも、結婚することもないんだから、と思い直す。
「よし、今日は珍しく薬が効いているみたいで、心臓の状態も落ち着いてるし、むくみも少ないね。顔色も昨日より良いよ。」
「そろそろ、お友達のことが気になるだろくし、お友達も心配しているだろうから、面会に来てもらってもいいよ。」
「…!ありがとうございます!」
郁の笑顔が弾けた。
笑った時にできる、特徴的なえくぼ。
幼い頃の面影がそのままで、碧はついクスッと笑ってしまった。
笑われたことに、驚き恥ずかしそうな郁。
「ごめんごめん!あまりにも嬉しそうだったから。…ただ、覚えておいて。長時間の面会は体に障るから、1日15分だけだよ。」
「ありがとうございます、それでも嬉しいです。友達に連絡を取ります。」
碧が部屋を出て行った後、郁は昨日佐藤が持ってきてくれたiPhoneの電源を入れた。
体も心なしか昨日よりも軽い。
上体を起こして朝食も半分ほど食べられた。
肋骨の痛みも昨日より良くなっている。
だが、例え昨日より気分が良くなっても、郁の手術を受けないという気持ちは変わらなかった。
ふと時計を見る郁。
そろそろ主治医の碧の回診の時間だ。
昨日のことを思い出し、どうしても意識してしまう。
しかし、生きることを諦めた患者が、こんな感情を持ってしまうのはおかしいと、自分の気持ちを封じる。
どうせ死んでしまう運命なら、ただの患者の1人として、なるべく負担のかからないように、記憶に残らないように、彼の前から消えたいとまで願う郁だった。
「おはよう、清水さん。調子はどうかな」
「おはようございます。今日はなんだか体が少し楽な気がします。」
「それはいいね。じゃあ聴診してから、むくみがどのくらいかチェックするね。」
碧が至近距離に近づき、郁の痩せた胸に聴診器を当てる。
否応無しに、碧を見てしまう郁。
少し胸がざわつく。
先生、昨日も病室に泊まったんだろうな。白衣の変なところにシワがついてる。
あ、先生今日はメガネだ。
伏し目がちになるとわかる、濃く長いまつげ。
手入れされていない黒い髪に隠れている、きれいで彫りが深い顔立ち。
引き締まった、男性らしい筋肉質な腕。
…まだ若くてかっこいい先生は、きっとモテるだろうな。
先生の体調を心配してくれる彼女か奥さん、いないのかな…
ハッと我に帰り、そんなことを考えてしまっている自分が恥ずかしくなった。
むくみの具合を見るため、脚を触られる。
我ながら、体中、脂肪も筋肉も落ちて、ガリガリだ。
ただでさえ無かった色気が、益々なくなったな…
少し悲しくなったが、別に誰とも付き合うことも、結婚することもないんだから、と思い直す。
「よし、今日は珍しく薬が効いているみたいで、心臓の状態も落ち着いてるし、むくみも少ないね。顔色も昨日より良いよ。」
「そろそろ、お友達のことが気になるだろくし、お友達も心配しているだろうから、面会に来てもらってもいいよ。」
「…!ありがとうございます!」
郁の笑顔が弾けた。
笑った時にできる、特徴的なえくぼ。
幼い頃の面影がそのままで、碧はついクスッと笑ってしまった。
笑われたことに、驚き恥ずかしそうな郁。
「ごめんごめん!あまりにも嬉しそうだったから。…ただ、覚えておいて。長時間の面会は体に障るから、1日15分だけだよ。」
「ありがとうございます、それでも嬉しいです。友達に連絡を取ります。」
碧が部屋を出て行った後、郁は昨日佐藤が持ってきてくれたiPhoneの電源を入れた。