何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
期待も虚しく、郁は次の日も、その次の日も、記憶を取り戻せなかった。

見知らぬ世界にただ1人連れて来られた子供のように、郁は怯えていた。

知らない人たちが、自分の知らないことを話している。

管だらけで、自由にならない体。

じっとしていても痛い傷は、ベッド上で少し動いただけで、声を出しそうなほど激しく痛む。

郁は泣いている時間が多くなっていた。


受けた手術の影響で、脳に問題が出ていることも疑われ、脳の検査をしたが、脳には問題が無く、原因は不明だった。

精神科の医師からは、おそらく死の恐怖を何度も味わったことからくる強いストレスが原因ではないか、と診断された。


やっと郁に出会え、約束を守るスタートラインに立てたのに。

少し近づけたと思った瞬間、離れていく郁。

もどかしく感じる碧だったが、いつか記憶が戻るかもしれないと期待し、なんとか時間を作っては、郁の病室に何度も足を運んでいた。
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