Crazy for you
「香帆」
私の名前を呼んで、頭を撫でる。
それはいつもの呼び方とは少し違って、甘い響きを持っていて。
「香帆、おいで」
手を広げられて、まるで蜜を探す蜂のように引き寄せられた。
その腕の中におさまるのは、いつ以来なのだろう。
小さい時のあの頃も壊れ物を扱うかのように大事に抱きしめられていたと思うけど、あの頃よりもずっと孝ちゃんの心臓の音が耳に響く気がした。
「鼓動はやいの、わかる?」
「……うん」
「本当はぜんぜんいつも通りじゃないよ。香帆が告白してくれた時も、デートの時も、いつもの孝ちゃんでいなきゃって思ってたけど、いつも通りでなんかいられなかった」
「いつも通りにみえたよ」
「香帆の前ではかっこつけたいから、必死だったの」
孝ちゃんは私の頭をしきりに撫でながら、ぎゅっと抱きしめる力を強くした。
「本当は、手も繋ぎたかったし、ハグもしたかったし、キスもしたかった。でも、香帆がゆっくり進みたいって思ってたら怖がらせるかも、と思って」
まさかそんなことを考えてるなんて思いもしなかった。
孝ちゃんも触れたいって思ってくれてたんだ、と思うとどうしようもなく感情がたかぶった。
「怖くないよ。孝ちゃんだったら、なにされてもいいもん」
「……そんなこといって大丈夫? 俺は香帆が思ってるより独占欲強いし、子どもっぽいし、甘えんぼだよ?」
甘えるように頭をすりすりされて、私はどきどきしっぱなしだった。
「うん。どんな孝ちゃんだって大好きだから」
「じゃあ覚悟、しといてね」
孝ちゃんはそういって、首筋に熱を落とした。
ちゅっちゅっと軽いリップ音が鳴って、くすぐったくて恥ずかしい。
ゆっくり身体が離されて、孝ちゃんの大きな目が私を映した。
唇は弧を描いて、指先が髪を撫でた。
「香帆、俺は香帆のこと、ずっとずっと前から、可愛いと思ってるし、この世で一番大切なんだ。大好きなんて言葉で言い表せないくらい」
ーーっ。
その言葉の破壊力が強すぎて、私は腰がくだけそうになった。
孝ちゃんが腰を支えてくれていたので大丈夫だったけれど。
血液が逆流してるみたいに身体中が熱くなる。
「顔真っ赤」
孝ちゃんは意地悪な顔でくすくす笑った。
それがなんだか悔しくて、私から孝ちゃんに抱きつく。
「私だって、孝ちゃんの気持ちに負けないくらい大切だって思ってるもん」
「それは嬉しいな。俺も香帆の小ぶりの耳も、アーモンドみたいな目も、小動物みたいなほっぺも全部愛しいよ」
孝ちゃんの吐息が順に耳と目と頬にかかって、私は恥ずかしすぎて死にたくなって、この人には敵わないんだろうなと悟る。
そんな私をみて孝ちゃんは楽しそうに笑って、「これから香帆が不安にならないように、いっぱい言葉にするから覚悟してね」と告げたのだった。