アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「…来ねぇな、人…」

「…あぁ…」

閑古鳥が、それはもう甲高い声で鳴いているのが聞こえてくるようだ。

思わずトランプに熱中するくらい、見事に誰も来ない。

俺達今日このまま、ずっと一日中トランプやってんじゃね?

いやいや、そんなまさか…。

…。

…有り得る。

「ビラ、配ってもらってんだよな?」

「一応…。そのはずだけど…」

「全く効果がないようですね」

…そうだな。

きっと新校舎には、俺達のにわかカレーより目を惹かれるものがたくさんあるんだろう。

と言うか、わざわざ旧校舎まで来るのが大変なんだと思う。

立地条件が最悪だよなぁ…。

新校舎を駅チカ徒歩二分だとしたら、旧校舎は駅からバスを乗り継いで一時間。くらいの差がある。

誇張じゃないぞ。実際それくらい違う。

既に文化祭が始まってから一時間以上経つのに、誰一人客が来ていないのが何よりの証拠だろう。

まだ昼時じゃないから、とはいえ…。

むしろ昼時になったら、余計お客さんなんて来ないんじゃね?

だって、新校舎にはたくさんの食べ物の屋台が出るんだろう?

目の前に、美味しそうな屋台が軒を連ねているのに。

わざわざ旧校舎まで歩いてきて、カレーを食べに来る客がいるとは思えない。

切ないなぁ…。

苦労して準備したんだからさ…。せめて一人、いや二人くらいは、食べて欲しかったなぁ…。

…と、思っていたその時だった。

「ごきげんよう、皆さん」

閑古鳥が鳴いていた『HoShi壱番屋』、通称ホシイチに。

記念すべき、一人目のお客さんがやって来た。

「おおっ…!やっと来た!らっしゃいやせーっ!」

雛堂、興奮するのは分かるけど、そんなラーメン屋みたいな挨拶をするな。

しかもそのお客さんは、見覚えのある人だった。

「えっ…。小花衣先輩…?」

「えぇ。ごきげんよう、悠理さん。美味しいカレー屋さんは、ここで合ってたかしら」

あ、はい…。

美味しいかどうかは保証しかねますが、カレー屋はここで合ってます。

「え、このお客さん、悠理兄さんの知り合い?」

「園芸委員の先輩…」

…と、もう一人。

大学生くらいの見知らぬ女性が、小花衣先輩と一緒にやって来た。

制服姿の小花衣先輩に対して、こちらの女性は普段着である。

ってことは、聖青薔薇学園の生徒ではない…?

すると小花衣先輩は、俺の視線に気づいたらしく。

「ご紹介しますね。私の従姉妹です」

「初めまして、ごきげんよう」

小花衣先輩と同じく、人の良い優しげな笑顔で、にこっと微笑んだ。

道理で、小花衣先輩の面影があると思った。

この人が、俺に制服を貸してくれた小花衣先輩の従姉妹のお姉さんだったのか。

わざわざ、店の方にまで来てくれるなんて…。
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