アンハッピー・ウエディング〜後編〜
よりによって、一番最初のお客さんが…小花衣先輩と、俺に制服を貸してくれた小花衣先輩の従姉妹さんとは…。

何だか、二重の意味で緊張するな。

あれだけお客さんに来て欲しかったのに、実際にこうして、初めて本物のお客さんがやって来ると。

身構えるって言うか…。いよいよか、って気持ちになるよな。

「え、えっと…。制服、貸してくれてありがとうございます。助かりました…」

まずは、貸してくれた制服のお礼を言わないとな。

「いいえ、良いのよ。気にしないで。私はもう着ないものだから」

にこっ、と微笑む小花衣先輩の従姉妹さん。

見れば見るほど、小花衣先輩に似てるなぁ。

こちらも、小花衣先輩に負けないレベルのお嬢様だということが伺える。

「コンテストも勿論見に行くつもりよ。頑張ってね、是非私の制服をきて、優勝して頂戴ね」

「…あはは。そっすねー…」

「…悠理兄さん、顔が笑ってないぞ」

優勝なんかしようものなら、俺は一生の恥をかく。

…それより。

「えっと…。カレー…食べて行かれます?」

と、俺は尋ねた。

俺に挨拶しに来ただけで、カレーを食べに来た訳じゃありません。とか言われたら。

最初のお客さんが来てくれた、と喜んでいた俺達は、見事にぬか喜びになってしまうところだったが。

「えぇ、勿論よ。悠理さんの作るカレー、是非食べてみたかったの」

と、言う小花衣先輩の背中に、天使の羽根が見えるのは俺だけか。

今日のお客さん、小花衣先輩と従姉妹さんが最初で最後だったとしても。

俺は、もう文句は言わないよ。

って思うくらい嬉しい、有り難いことだった。

「ど、どうも…。どうぞ、お好きな席に」

「ありがとう」

「それじゃあ、失礼して」

客席に座って、手書きのメニューを開く小花衣先輩と従姉妹さん。

すげー…。壮観。

新校舎のお嬢様と、その従姉妹(こちらもお嬢様)が、旧校舎の俺達の教室にいて。

席に座って、カレーのメニュー表を眺めている。
 
凄いシュールな光景。目に焼き付けておこう。

「えっと…ご注文は…?」

「そうね…どれも美味しそうだけれど、私はこの、シェフのこだわりカレーにしようかしら」

よりによって、一番スタンダードなメニュー。

シェフのこだわりと言えば聞こえは良いが、ただの手抜き貧乏豚こまカレーだからな、それ。

「お連れ様は…?」

「私はこのオムカレー。それにサラダをつけてもらえるかしら」

寿々花さん絶賛のオムカレーを注文。

「か、畏まりました…」

いよいよ来たぞ。正真正銘、本物のお客さんが。

俺の手作りカレーが、初めてお客さんの口に入る瞬間である。

…やべぇ。めっちゃ緊張してきた。
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