アンハッピー・ウエディング〜後編〜
結局、それからまた不毛な押し問答を繰り返した。

何とか、この変態、とばかりに窓の外から追い払うことに成功したが。

いつ、また窓の外に戻ってくるか分からない。

もう、こうなったら寿々花さんが見ていないうちに、急いで入浴を済ませるしかない。

いつもなら、ゆっくりと湯船に浸かり、一日の疲れを癒やすところだが。

今日はとてもじゃないが、そんなことをしている余裕はなく。

カラスの行水のごとく、さっさとシャワーを浴びて、手早く身体を洗い。

ちっともゆっくり出来ないまま、入浴タイム終了。

恐る恐る浴室を出て脱衣場に戻ると、さすがに鍵を掛けているお陰で、脱衣場は無人だった。

だが。

「うわっ…」

「…じーっ…」

きっちりと服を着て、鍵を開けて脱衣場を出るなり。

待ち構えていた寿々花さんが、追い払われた恨みがましい目でこちらを見ていた。

出待ちしてたのかよ。

入浴を終えたばかりの俺を、じろじろと頭のてっぺんからつま先まで見つめ。

また、さらさらと、クリップボードに何かを書き込んでいた。

…何?何書いてんの?今。

マジで何やってんの?

あぁ、全然落ち着けない。

「…寿々花さん、俺そろそろ寝るんだけど…」

監視され続けて、もう疲れたよ。

今日は早く寝よう。

「寿々花さんも、そろそろ自分の部屋に戻れよ」

「えっ…」

えっ、じゃなくて。

「でも、まだ今日のノルマが終わってない」

ノルマって何?俺の粗捜し?

何のことか、さっぱり分からねぇけど。

「明日にしろ。俺はもう寝るから」

「そっか…。そうだ。じゃあ、私も悠理君の部屋で一緒に寝てもい、」

「はいはい、おやすみー」

「あーっ、悠理君〜っ」

手を伸ばしてこちらに来ようとする寿々花さんを、強引に押し戻し。

俺は自分の部屋に逃げ帰って、そしてしっかりと鍵を閉めた。

…ホッ。これで安心。

「悠理君。悠理くーん!入れてー」

部屋の扉を、どんどん叩いている音がしたが。

無視だ、無視。誰が入れるか。

昼間ならともかく、今は夜なんだぞ。

夜に、今から寝ようとする時に、異性を部屋に入れるなんて有り得ないだろ。

窓からも入れないよう、きっちりと鍵をかけて、カーテンも閉めておく。

ふぅ。これで家庭内ストーカー対策は完璧。

ようやく、ようやく一人になれるリラックスタイムがやって来た。

今夜は良い夢が見られそうだよ。

ホッと一安心して、ベッドに入ったのも束の間。

良い夢が見られると思っていたのに、その日の夜は悪夢でうなされることになった。

壁や窓や床、天井に巨大な目があって、その目にじーっと監視されている夢だった。

めっちゃ怖かったよ。何なんだこの夢は。
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