アンハッピー・ウエディング〜後編〜
どうにかこうにか、宿題も終わったので。

さて、そろそろ風呂に入って寝るかな。

俺が椅子から立ち上がると、寿々花さんも、さっ、と立ち上がった。

そして、俺が行くところには何処にでもと言わんばかりに、後ろをついてこようとした…が。

そうは行かないぞ。

「ちょっと待て。俺、今から風呂に入ってくるから」

「うん」

うんじゃなくて。

今から風呂に入ってくる、とちゃんと宣言したのに。

俺がバスルームに向かおうとすると、あろうことか、寿々花さんはその後ろをついてきた。

嘘だろ。このストーカー。

バスルームまでついてくるつもりなのか。

「…なぁ、寿々花さん」

脱衣場までやって来ても、寿々花さんは俺から離れるつもりはないらしく。

普通に、一緒についてきた。

…なぁ。嘘だろ?マジで。

「…まさか、風呂にまでついてくるつもりじゃないだろうな?」

「ふぇ?駄目なの?」

「駄目に決まってるだろ」

即答すると、寿々花さんはびっくりしたような顔になっていた。

こっちがびっくりだわ。

むしろ、何で許されると思ったんだよ。駄目に決まってる。

俺が許しても、天の神様が許さない。

家事や宿題を監視するのとは、訳が違うぞ。

「さっさと出ていけ。大体、さっきから何でずっと…」

「大丈夫だよ、悠理君」

寿々花さんは、俺の言葉を遮るように言った。

…何が大丈夫なんだよ?

「私、悠理君のありのままを見たいから。何も恥ずかしがることはな、」

「アホが。今すぐ出ていけ!」

「ふぇー」

何を血迷ったことを言ってるんだ、このお嬢様は。

こうなったら実力行使。

俺は強引に、寿々花さんの背中を押し。

ぐいぐいと、無理矢理脱衣場から追い出した。

そして、鍵をガチャリと閉めた。

鍵を閉める音を聞いて、寿々花さんが扉の向こうで「ガーン」とショックを受けているのが伝わってきたが。

知ったことではない。勝手に入ってこられたら困るからな。

脱衣場に鍵がついてて、本当に良かった。

今まで、この鍵を利用したことなんて一度もなかったが。

こんな時の為に存在してたんだな。

…って、こんな時が何回もあって堪るものか。

寿々花さんが勝手に入ってこられないよう、つっかえ棒を買っておくべきか…?

「…はぁ…」

何はともあれ、バスルームという狭い空間でも、ようやく一人になれた。

朝からじーっと見られてて、落ち着かないの何のって。

一人になれる空間って大切だよな。それが例え風呂の中でも。

じゃあ、ゆっくり風呂に入ろうと、着ているものを脱ごうとした。

その時。

「…ん?」

…気の所為だろうか。また、何処からか視線を感じる。

まさか、もしやと思って視線の方向を向くと。

「じーっ…」

「ひぇっ…」

思わず、悲鳴を上げて腰を抜かすところだった。

脱衣場から追い出された恨み、とばかりに。

寿々花さんは外の庭に回り、浴室の窓にべたっとくっついて、こちらを監視しているではないか。

こ、この。変態。

気づいたのが服を脱ぐ前で、本当に良かった。
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