アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その日の放課後。

相変わらず、俺の頭の中は遠い空の彼方に旅立っていた。

いっそ何も考えずにいたかったが、そういう訳にはいかない。

挙げ句、今日は水曜日。

そう、園芸委員の活動がある日である。

どんな時でも、容赦してくれないもんだな。

とてもそれどころじゃないって時に…。

今日くらいはサボろうかと思ったが、俺がサボったら、小花衣先輩が一人で作業をしなきゃならない。

寿々花さんの留学の件で悩んでいるのは、それは俺の事情であって、小花衣先輩には関係ない。

それはそれ、これはこれってことだ。

仕方なく、俺はぼんやりした頭で新校舎にやって来て、いつも通り園芸委員の仕事を…まずは日課の水やりから…始めたのだが。

「…」

「悠理さん、悠理さん」

「…はぁ…」

「悠理さんっ」

「はっ!?」

誰かに背中をぽん、と叩かれて、俺は慌てて我に返った。

「大丈夫?ホース、水が出しっぱなしよ」

振り向くと、心配そうにこちらを覗き込む小花衣先輩の顔が。

え、ホース?

気づくと、出しっぱなしになったホースの水が、地面に水たまりを作っていた。

足元びっちょびちょになってることに、今気づいた。

「はっ…!す、済みません…」

俺は、慌ててホースの水を止めた。

あーあ…。靴まで濡れてる。気持ち悪っ…。

何をやってるんだ、俺は…。

「悠理さん、今日何だかボーっとしてて…。大丈夫?」

小花衣先輩の、この心配そうな表情。

「だ、大丈夫です…。はい…」

「でも、全然大丈夫なように見えないわ」

だろうな。

「何かあったの?悩み事かしら」

「…いえ…別に…」

「私で良かったら、何でも話して頂戴。今年一年、悠理さんは園芸委員の仕事をとてもよく頑張ってくれたもの。悠理さんの力になれるなら、私もお手伝いするわ」

…小花衣先輩、あんた良い人だな…。

だけど、小花衣先輩には関係のないことだから…と、言いかけたが。

待てよ。

よくよく考えたら、小花衣先輩は寿々花さんと同級生。

俺みたいな貧乏人より、近い視点で寿々花さんの気持ちが理解出来るんじゃないか?

…それなら…。

「えっと…その、実は…」

さすがに、寿々花さんの名前を出すことは控えたが。

仲の良い友人、という設定にして、俺は小花衣先輩に、その友人に長期海外留学の話が出ていることを説明した。

全く、こんなことを他人に相談するなんて、俺もどうかしている。

だが、自分一人で考えていると、考えれば考えるほどドツボにハマってしまうのだ。

こうなったら、別の第三者に意見を求めるしかなかった。

すると。

「まぁ、フランス留学?それは素敵ね」

小花衣先輩は、胸の前で両手を合わせてそう言った。

…やっぱり小花衣先輩的には、願ってもない朗報のように聞こえるんだろうか。
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