アラフィフ・ララバイ
「女優さんだなんて、そんな大層なレベルには達してないわよ。小さい劇団の一団員ってくらい」

「でも、劇団員も歴とした俳優さんには変わりないですよ」

言いながら、妙に興奮する自分を必死に押さえこんでいた。

だって今まで演劇は観るものであって、演じる側は自分とはかけ離れた遠い存在だと思ってたから。

それなのに、いきなり演者が身近な存在と知って不思議な気分になった。

「いつからなんですか?」

「三年前」

「え~、もう三年も?全く気がつかなかったですよ」

でも、思い返してみると、丁度三年前から、詩織さんは仕事終わり更衣室でパート仲間とだらだらおしゃべりせず、ささっと帰ることが増えたような気がする。今更だけど。

「あと、これも誰にも話してないんだけど」

いやいや、今日の詩織さんはどうしちゃったの?私みたいな者に秘密話のオンパレードなんですけど。

そんな戸惑う私を知る由もなく、彼女は、さきほどよりももっと声を潜めて、でも神妙な顔つきで言った。

「先月離婚したの」

目を大きく見開き、詩織さんの顔を見つめる。

ごくんと喉がなり、思わずむせた。

仲のいい友人ならともかく、日頃敬愛している先輩からそんなシビアな告白を受けたらどんな風に返せばいいのか、バカな私の頭ではわからない。

「やだ、なんて顔してるの?内田ちゃん、今にも泣きそうなんだけど」

悲しいとかそんなんじゃなく、こういうとき、アラフィフにもなって、気の効いた一言すら出てこない自分が不甲斐なかっただけ。

年だけくってる自分が、自分の人生をしっかり生きてる詩織さんの前で情けなくなってた。
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