銀河特急777 銀河周遊編 心惑う惑星間旅行 源太郎は何を見たのか?
 遠くで激しく光る光点が見えた。 超新星爆発らしい。
ものすごいガンマ線バーストも起きているようだ。 あの星もいずれブラックホールになるのだろうか?
 展望車の壁には星図が掛けられていて一目で何処を走っているのか分かるようになっている。 二階はコスモパノラマである。
360度 あらゆる角度で銀河や星雲、星の動きが手に取るように見える。 気を失いそうなくらいに壮大な景色である。
 「ここにいらっしゃってたんですか?」 そこへアニーがコーヒーを持って入ってきた。
今は朝の時間だからなのか、展望車に客はほとんど居ない。 源太郎とアニーだけである。
 「仕事中では?」 「モーニングサービスが終わったので抜けてきたんです。」
彼女はそう言うと源太郎の隣に並んだ。 「地球、離れてしまいましたね。」
「そうだね。 見えなくなった。」 「ご家族はいらっしゃるんですか?」
「母さんと妹が居るよ。」 「じゃあ源太郎さんだけですか?」
「やっと休みが取れたから乗ったんだ。」 「そうなんですね。」
「お土産を強請られちゃったよ。」 「アンビターナのですか?」
「そうなんだけどさあ、君でもいいかな?」 「私?」
 二人が話していると列車が減速を始めた。 「何か有るのか?」
「何か擦れ違うようですね。 コスモシグナルが点滅してます。」 アニーが遠くに浮かんでいる信号を指差した。
「確かにそうだ。 停止信号だね。」 「何が来るんでしょうか?」
 停止信号が出されるということは緊急車両なのだろう。 車掌の声が聞こえた。
「皆様にお知らせいたします。 緊急車両が通過いたしますのでしばらく停車いたします。 発車いたしますまでお待ちくださいませ。」
 「緊急車両か、、、。」 源太郎が目を凝らしているとそこに走ってきたのはコスモキャノンを何両も連結した武装列車だった。
その後には黒塗りのあの護送列車も続いている。 穏やかな列車とはとても言えない。
 「ああしてまた血が流されるんだわ。」 行き過ぎる武装列車を見ながらアニーは唇を噛み締めた。
「しょうがないよ。 全てが正義でもないし全てが悪でもない。 全てが認めているわけでもないし、全てが認めていないわけでもない。」
「でもこれはひどすぎるわ。」 そこへ食堂車のアテンダントコールが鳴った。 アニーが食堂車へ帰った後、源太郎は星図をしげしげと見詰めた。
 銀河系内でも黒く塗りつぶされた星が有る。 駅の設置を認めない星だ。
既に廃止されている路線が有る。 武装兵団に占領されている星域が有る。
未だに停車しない駅が有る。 銀河高速鉄道が全てではないわけだ。
 武装列車が通過したのかアストロライナーもゆっくりと走り始めた。

 「でもさあ、本当に何にも無いんだね。」 「ご不満ですか?」
「銀河旅行だって言うくらいだからショッキングなイベントみたいな物が待ってるんじゃないかって期待してたんだ。」
「そこまでは無いかもしれません。 でも星の爆発とかブラックホールとか不思議な現象はたくさん見られますよ。」 アニーは厨房を出て遥かな遠くを見やっている。
「そりゃあ君は何年も乗っているからそうやって言えるんだよ。 俺は初めてだからさ、、、。」 熱いコーヒーを飲みながら窓の外に目をやる。
アニーも何処かの星を見詰めているようだ。 その星は何という星なんだろう?
 「この先、火星を出れば銀河高速線から銀河中央環状線に入ります。 そうしたらそれまでとは全く違う風景が見えますよ。」 「どういうこと?」
「言ってしまうと楽しみが無くなるので言いません。」 「つまんないなあ。」
「そのほうが源太郎さんのためにもいいかと、、、。」 アニーはクスッと笑うと厨房へ入っていった。

 「地球火星間 異常無し。」 「了解。 定速走行を続けます。」
「まもなく惑星間第一トンネル。 電波状況に注意せよ。」 「了解。」
 地球を離れてもうすぐ二日。 列車は太陽系第4惑星 火星に近付きつつあった。 火星に到達するまでに三つの惑星間トンネルを抜けることになっている。
惑星間トンネルには電波ステーションが設けられていて各惑星の通信基地と繋がっている。 そしてエネルギーステーションでは不足分の液体酸素を補充することも出来る。
 このエネルギーステーションは一風変わった造りになっている。 トンネルに進入した機関車がトンネルを出る頃には注入が終わっているのだ。
どうなっているのかというとトンネルに入った機関車が燃料タンクのバルブを開くと液体酸素が注入される仕組みになっている。
 銀河高速鉄道の当初の設計ではガソリンスタンドのように停車して注入する方式を取っていた。
だがそれでは運行時間に支障をきたしかねない。 そこで強制注入というアンドロメダ方式を取り入れたわけである。
 今日も一定のリズムを刻みながら列車は走っている。 源太郎は見えなくなった地球を思いながら食堂車でコーヒーを飲んでいる。
窓の外は漆黒の闇と点のように輝く星が見えているだけ。 空き時間だからか、食堂車には誰も居ない。
天井には古いシャンデリアが下がっていて変わらずに源太郎を照らしている。 このシールドの下をこぐま座へ向かう普通列車が通り過ぎて行った。

 そして第3トンネルをアストロライナーが通過した時、それに合わせるように巨大な戦艦が車窓に現れた。
「おいおい、何だい あれは?」 食事をしていた常連グループの男が戦艦を指差して声を挙げた。 「あれは確か、レッドキャノンの船では?」
「レッドキャノン?」 「そうだ。 宇宙を寝床にしている賊の連中だ。」
「何でそいつらが太陽系に?」 「分からんが航海の途中なんだろう。」
 源太郎もその船影をはっきりと目にした。 父さんが乗っていたような船にも似ている気がした。
だが戦艦は何もせず静かにアストロライナーから離れていったのである。 「こちら運行管理本部。 異常無し。」
「了解。」 「まもなく火星ステーション。 降下準備に入れ。」
 列車は少しずつ減速し始めた。 源太郎は食堂車を出ていった。
車掌はというとずっと車掌室に籠っている。 何をしているのかというと運行中の機関車のデータを監視している。
だって機関車は運行管理コンピューターに管理されているのだから彼が特に何をするということは無い。 まあ警備隊や救難隊を要請するような大事でも無ければ彼が何かをすることも無いのだ。
 その頃、地球の運行管理本部では、、、? 「エストラーゼ星団縦断線が貫通しました。」
「よし。 982号は第724星区に向かえ。」 「了解しました。」
 無軌道探査列車 982号と983号は会社創立以来、ずっと宇宙内を走り続けている。 彼らの旅が終わることは無い。
おそらくはこの宇宙が完全崩壊するまで果てしなく続けられるのである。
 運転手はコスモサイボーグ。 列車は探査用の特別な車両である。
ウルトラハイパーワープの機能は持っているが攻撃用の装備は無い。 万が一攻撃されて再起不能に陥っても破片すら回収されることは無い。
 982号は宇宙全域の探査を、983号は銀河系とその周辺の探査を任務としている。 おかげで数多くの移住可能惑星を発見することも出来た。
ジョージは新しい報告が齎されるたびに研究開発に尽力した研究者たちの遺影に頭を下げてきた。
「スペンダーが居たらどれだけ喜んでくれたか、、、。」 宇宙鉄道を発見したスペンダーはそれから10年後の事故で死んでしまったのだ。
 副総裁 トミー ハイドネルも彼の後ろで首を垂れていた。 「よくここまで、、、。」
「そうだ。 この会社が150年やってこれたのはみんなの協力のおかげだよ。」 「創立前はどうなるか分かりませんでしたからね。」
「ああ。 軌道安定装置すら作れなかったんだ。 アンドロメダの技術が無ければ今頃は彼らに支配されていただろう。」
 150年、様々な流れが有った。 新線が開通したかと思えば旧線が廃止されたり、武装集団の砲撃を受けたり、、、。
それが今や全宇宙にネットワークを持つ会社にまで成長したのだ。 まぐれではないだろう。
 今日も国際地上駅では各路線の各列車が発着を繰り返している。 夥しい数の旅行客が行き交っている。
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