婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

12.円満な家族

「ラガンド様、そろそろあの子達を呼んでもいいのではないでしょうか?」
「ああ、そうでした。アノテラさんには実はまだ紹介したい人達がいるのです」
「あ、はい」
「二人とも、出ておいで」

 話が一区切りついてから、エンティリア伯爵は部屋の奥の方へと呼びかけた。
 するとそこから、少年と少女が出てくる。その二人は恐らく、ラルード様の弟と妹なのだろう。

「リーン・エンティリアです」
「ルメティア・エンティリアです」
「ご丁寧にどうも。私は、アノテラ・ラーカンスと申します」

 少年と少女は、私に対して丁寧な動作で挨拶をしてきた。
 それに対して、私も挨拶を返す。ラルード様の家族に対して、しっかりと礼節を弁えていると示さなければならない。

「まあ、これがエンティリア伯爵家の面々です。アノテラさん、どうかこれからよろしくお願いしますね?」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 エンティリア伯爵は、にこにこしながら私を見てきた。
 リーンとルメティアも、同じような顔をしている。そういう笑顔は、エンティリア伯爵家の共通のものであるらしい。

「……リーン兄様、アノテラさんってすごく美人だと思わない?」
「え? あ、えっと……まあ、そうだね?」
「お兄様、もしかして一目惚れしたのかしら?」
「どうだろう?」

 そこで二人は、こっそりとそのような会話をしていた。
 それを聞き、私は少し照れてしまう。なんというか、先程から褒められっぱなしだ。
 別に私は、そこまで容姿端麗という訳ではないはずである。それなのにここまで褒められるということは、やはりお世辞なのだろうか。

「確かに、ラルード好みの顔かもしれないわねぇ……」
「あ、お母様もそう思いますか?」
「ええ、なんとなくだけれど、あの子が好きそうな感じがするわ」
「わあ、なんだかロマンチックですね……」

 兄妹の会話に、伯爵夫人まで乗り始めた。
 それを見ながら、私は苦笑いを浮かべる。どうやら、エンティリア伯爵家は家族円満であるらしい。

「さて、アノテラさん。挨拶はこのくらいでいいでしょう。そろそろ、客室に移りませんか?」
「あ、はい。そうですね。それなら、これで失礼させていただきます」

 三人の会話を聞いていたからかどうかはわからないが、ラルード様は挨拶の終わりを提案してきた。
 断る理由も特になかったため、私はそれに乗ることにした。伯爵達もそれでいいのか、皆笑顔を返してくれる。
 こうして私は、ラルード様の家族と会ったのだった。
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