バー・アンバー 第一巻

✕✕OL殺人事件

こんな途方もない断定をするとはいかにもジャーナリストらしからぬところなのだが、しかし俺はつまびらかには出来ないが、故あってある宗教団体の勧誘ビデオ会と〝現象の会〟と称する降霊会を以前に体験していて、そこでアッと驚く超常現象をまつぶさにしていたのである。それは否定しようにも否定できない、確固たる証拠を伴うもので、またその宗教団体が昨今近所そこらにある拝み屋とかインチキ霊媒師の類ではないことだけは云っておく。とにかくそういう素地があってのミキへの断定なのだが、しかしそれだけではない。ミキが云った「わたしは電力業界に勤めていた」なる言葉にさらなるミキの正体への肉迫を覚えたからだ。それを述べたいが、まして俺自身がそれやこれやを確めたいのだが、しかし今は出来ない。今は果してどこまでそこに迫れるかどうかである…。
「ちぇっ、まだ開いてないのか。(連れに)おい、まだ開店してねえよ。ほか行こうぜ」なる言葉がドアの外から伝わって来た。よかった。アイツではなかった。しかしおっつけ現れるだろう。もっともアイツなら鍵を開けて入ってくるだろうが。とにかく俺は「そうか。そうだろうな…」とやや黙考したあと「じゃあさ、とにかくいつでもいいから必ず俺に電話してよ。ね?真夜中でも朝でもいつでも構わないからさ」と念を押す。「ええ…」どこか自信なさげにうなずくミキの様子を見ながら「それでさミキ、きみさっき電力業界に勤めていたとか云ったけど、それで思い出したが、ほら例の、✕✕OL殺人事件とか、有名な事件があったじゃない。いまから25年ほど前の、1997年のことだけど。その時きみは14、5才かな?中学生だったろうし覚えてないだろうね?いまはもう2021年だし」と肝心要の話を切り出した。なぜかの有名事件をここで持ち出したかというと、実は俺はこの事件に甚大なる興味をかねてより抱いていて、それは例の冤罪判決が出て以来特にそうなのだが、何せ義憤に燃えて、真相を究明すべくかなりきわどい記事を然るべきニュース媒体に投稿もし、あるいはユーチューバーとして自作の動画をアップしたりもしていたのだ。で、ハッキリ云おう。先ほど来の「お父さんはどこですか?」あるいは「電力業界に勤めていた」なるミキの発言を聞いて、またビンビンと伝わってくる彼女のやるせない、そして悲哀きわまりない波動を感じもして、俺は彼女が、ミキが、その殺された被害者の霊そのものではないかと(ほぼ)断定していたのである。そしてもし本当にそうならばあの『なぜ俺ごときに?』という〝やらせ元〟への疑問にもある程度納得の行く気がするのだ。
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