バー・アンバー 第一巻

田村は霊能者?

尤もとにもかくにもこれらは未だまったく推量の域を出ない。だいたいこんな突拍子もないことを考えつくなんて、お前は馬鹿か、気違いかと他人は云うだろう。しかし前言したが俺は自分のインスピレーションに重きを置いているし、また何よりこちらも前言した某宗教団体からの訓導よろしく(?そんなものあったっけ?俺が勝手に入れ込んでいるだけの話だ)、俺は霊や霊界について至ってポジティブな傾向を普段から帯びているのである。このような観点から云えば俺は介護ジャーナリストである他に〝霊界ジャーナリスト〟であるのかも知れない。実際のところこちらも先に記した俺のインタビュー時における六指針の他に、この霊存在への指針も俺は確実に持ち合わせているのだ。だから正確にはこれは七指針と云うべきで、さらに、もしオーバーな自称を許してもらえるなら、俺をある種の霊能者と思ってもらってもいい。相手の放つオーラと云うか真の心の姿を、俺の目は人より鋭敏に捉えられるようなのだ。このような素地があってのミキへの断定だった。
 さて横道にそれた。ミキへの問いに戻ろう。俺はこの最後の2021年をことさらゆっくりと云ってみせた。ミキが自覚している今の、生きた時間と年代を確かめてみたかったのだ。ミキへの断定が的確だったとして、それならば俗に死んだ人間に於いてはその時点で時が止っているというではないか。
ミキは目を見張るように、シリアスこの上ないといった表情で「それって…有名な事件って…わ、わたし、知らない。そんなこと。ただわたしはあの時、あんなチンピラに…悔しくって、ただ悔しくって」そこまで云ってミキはハッとしたように口をつぐみ辺りを見まわすようにした。俺には見えぬ、俺には聞こえぬ何者かの気配を自覚し、その言葉と云うか警告に耳を貸しているように見える。「ミキ!」と俺は覚醒を促す。当りまえだが未だまったくからくりも仕掛けも分からぬ状況とは云え、このミキ(の魂)を使って俺にコンタクトさせている人物のその意図を思う時、ミキの正体を知られることは好ましくないのだろう。事ここに至る展開から云ってこれはハッキリ美人局なのだ。ミキの身体と魅力を使って俺に何事かをさせようとする上での。ところが一方のミキにおいては霊界からの束の間の解放と、そしてこちらは本人が自覚しているかどうかは知れないが、自らへの究極的な〝救い〟であるのにやはり違いないと思う。
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