バー・アンバー 第一巻

魔王の出現

しかしとは云えそれ以外に原因があっただろうか?先の、急に霊視が開けたことと云いこのイブとの遭遇と云い、奴の施した魔薬以外に原因は考えられない。慮る俺にイブが紡ぐ手を止めて「そうです、ご主人様。わたしが魔王の施術を利用したのです」「え?魔王?利用した…?」「はい。本来ならあなたとこうして直接会うなど、とても考えられなかった。ですからもう久しくもどかしく思っていましたのに、奇しくも魔王の施術を目撃して、あなたに霊能力らしきものが開けたのを知って、そして、だからわたし…そこを突いたのです」そうか…とばかり不思議に合点できる俺。それは先のイブのつむぎ歌がそのまま俺の心に理解されたのと同じ塩梅だった。しかし同時に何か得体の知れない危惧を感じ、胸騒ぎを覚える。魔王の業を利用したなんて…そんなことをしてはたしてイブはだいじょうぶなのか?「はい。でもわたし…どうしてもあなたにつむぎ歌を聴いてほしかった。あなたを想うわたしの心を知って…」それに答えるようにイブが語るのだが突然「ハッ!」と一声を上げて中途した。恐ろし気に夜空を見渡す。そこには星々から生じたごとく垂れさがっていた銀色の単糸がいつの間にか禍々しい蜘蛛の糸に変わっていて、俺たちを、就中イブを絡め取るように思われた。続いて中空に魔王の笑い声が響きわたる。
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