傾国の落日~後宮のアザミは復讐の棘を孕む
 杯を交わして婚姻の誓いもなし、華燭の典はつつがなく終わった。
 そしてようやく寝室で花郎(はなむこ)花娘(はなよめ)の面布を外し、二人は初めて顔を合わせる。
 現れた紫紅の顔に、伯祥が息を呑んだのがわかった。
「――そなたが……なんて、美しい……」
 感嘆したように言われて、紫紅は恥ずかしさに顔を俯けた。
「まさかこんな美しい人を、父上が私に寄越してくれるとは思いもしなかった……」
「過分なお褒めにあずかり……」
 恐縮して目を伏せる紫紅に、伯祥が言う。
「過分ではないよ。……本当に、綺麗だ。鮮やかな紅い花のようで……私は天下で一番の果報者だ」
「……殿下……」
 伯祥は新妻の手を取って臥床へと導く。 
「今日は早朝から疲れたのではないか? 無理をさせたくはないが――」
 臥床の上で向かい合い、伯祥が気遣うが、紫紅の手を包み込むように握る夫の大きな両手は、熱く、それが紫紅の心臓をもドキドキさせる。紫紅は慌てて首を振った。
「だ、大丈夫です! わたし、身体は丈夫だから……!」
 言ってしまってから、これでは閨事をしたがっているように聞こえはしまいかと、紫紅はハッとなって真っ赤になって俯いた。その様子に、伯祥が思わず笑い声を立てる。
「ハハハッ……」
「そ、そ、その……そう言う意味では。その、殿下のよろしいように……」
 消え入りそうに恥ずかしがる紫紅に、伯祥は首を振った。
「殿下じゃなくて、伯祥だ。そなたのことは、紫紅と呼んでも?」
「は、はい……伯祥様」
 紫紅が頷けば、伯祥は微笑んで彼女を抱き寄せ、耳元で言った。
「じゃあ、遠慮なく抱いても……?」
「は、は……はい」
 伯祥の整った顔が降りてきて、唇がふさがれ――紫紅はそのまま、褥に沈められた。
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