水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 碧の反応も無理はない。100憶の借金を40憶も減らしたなど、魔法でも使ったのかと疑わずにはいられないほどの超展開だ。真央が碧の立場であれば、同じように言葉を理解することすら諦める。



「真央はさ、今あいつとどういう関係なわけ」

「付き合ってます」

「いや、借金ある男と付き合う馬鹿がどこにいるんだよ」

「ここにいるよ?海里とは、想いが通じ合っています。海里と結婚するためには、借金完済が条件になりそうなので……頑張って、借金返済をしている所なんですよ…」

「おい、待てよ……。だからオレは、あいつに協力しなかったのに……これじゃ意味ねーじゃん……」



 碧はぼそぼそと、これでは海里に協力をしなかった意味がないと呟く。

 碧と海里の間に何があったのかを知らない真央は、まずは碧が辞めた理由をはっきりさせることから始める必要があった。



「碧さんは、海里が嫌いになったから……。やめたわけじゃ、ないんですね」

「……あいつが意味わかんねぇ選択すんのを、止められなかったからやめた。借金返済の為にあいつが紫京院の手を取るのが許せなかったんだよ。あいつはあの水槽を守るためとかなんとか言って、聞き耳を持ちやしねぇ。あの水槽を守ったところで、真央が戻ってきたときに結婚できなきゃ意味ねぇじゃん。アホか」

「碧さん、止めてくれたんですね」

「あたりめぇだ。当時のメンバーは全員止めたが、あいつが勝手に一人で決めちまった。自分の殻に閉じこもって、経営をよくしようって熱意も感じられねぇんじゃ、やめるだろ。さすがに。あいつはオレたちを捨てたんだ。今更協力なんて、してやるかよ」



 碧はどうやら、当時海里に捨てられたと思い込んでいるらしい。海里は当時の従業員に迷惑をかけないようにあえて突き放したのだろうが、それがうまく伝わらずに──深い溝となっている。

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