水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
『真央ちゃんが海里に会っても、傷つくだけだよ。やめた方がいい』

 再会した際に止めた川俣も、碧と同じように思っているからこそ、真央に忠告したのだろう。

 ここは真央が間に立って仲を取り持たないと、再び仕事仲間として肩を並べて業務に取り組むのは難しそうだ。

 真央はこの場で碧を説得すると決めた。



「海里は今、借金を完済しようと頑張ってます」

「あぁ?ほぼ息するだけの置物と化してたあいつが?」

「人がいないときは、水槽が見えない所まで外に出られるようになりました。巨大水槽で公演するときも、率先してお客さんの誘導を手伝ってくれますし……」

「観客誘導なんざ、館長の仕事じゃねぇよ。経営しろ、電卓弾け。ったく……」

「海里は、皆さんを捨てて紫京院グループの手を取ったわけではないですよ。皆さんのことを捨てたなら、私だって捨てられてます」

「海里は真央を、捨てたりしねぇだろ。その選択をしたなら、今度こそ終わりだ」

「危なかったんですよ。再会して一発目が、あんな約束は無効だ……ですから……」

「おい、ちょっと待てよ。海里のやつ、真央を捨てようとしたのか?」

「心配ないですよ。私が必死にしがみついて、今は相思相愛な彼氏彼女なので」

「まじかよ……ありえねぇ……」

 碧は苦虫を噛み潰したような表情をした。マーメイドスイミング協会の仲間と一緒だ。ドヤ顔で語るような話ではないと思われている。

「あの馬鹿は、本当に……頭かち割ってでも、正気に戻してやるべきだったか……」

 碧は真央を怒らせたいわけでも、悲しませたいわけでもないようだが、その発言を聞いた真央は、肩を震わせて怯えてしまう。

(今、頭かち割るって言ったよね……?そんなことしたら、海里が死んじゃうんじゃ……)

 真央がぐるぐると良からぬことを考えていると、引き攣った笑みを浮かべて怯える真央の様子に気づいたのだろう。碧は乾いた笑いを浮かべると、優しい声音で真央を労った。



「……半年間で40億。よくやったよ、お前は」

「今は仲間に協力してもらえているから。どうにか利益を出し続けているんですけど……あと半年で、私が集めた仲間たちは手を引くんです。その前にどうにか、私は里海水族館を12年前のような――居心地のいい場所に戻したい」

「紫京院グループと、すっぱり手を切るって?無理に決まってんだろ」

「無理ではありません」

「諦めろよ」

「諦めません!」



 碧と海里は12年前、仲のいい兄弟のような関係だった。歳が近いこともあり、二人は真央から見ても本当に仲がいい兄弟のように海里水族館で暮らしていたはずだ。

< 87 / 148 >

この作品をシェア

pagetop