ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
『週末、空いている? 美味しい鉄板焼きのお店があるから、一緒にどうかな?』

 どうやら社長は、すぐ近くに私がいることには気がついていないようだ。

『ええと……』

 逡巡していると、社長はさらに押してきた。

『着物も返さなくてはいけないし……』

『ああ、そうですよね。週末、はい、大丈夫です』

『良かった、また会えることを楽しみにしている』

 社長は弾むような嬉しそうな声で言った。

『私も』

(私もってなに⁉ また流されている!)

 もう一人の自分が私を叱る。わかっている、わかっているけど、つい本音が……。

『それじゃあ、また連絡するね。仕事頑張って』

『はい、ありがとうございます』

 短い通話だったけれど、社長と電話で会話してしまった。手が震えて、頬が高揚する。

「社長、どうしたのですか? ご機嫌ですね!」

ロビーで取り巻きたちが、電話の終わった社長に声を掛けているのが聞こえてきた。

「まあな」

 嬉しそうな社長の声も聞こえる。

 どうしよう、胸が苦しい。終わらせなきゃいけないのに、社長と少し話せただけで、こんなにも喜びに胸が震えるなんて。
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