ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
 社長はなにも悪くないだけに、言葉を返すことができなかった。無視するような形になりながらも、小走りで玄関を飛び出した。

「あの、有紗さん!」

「来ないでください!」

 追いかけてこようとする社長を大声で制して、走ってエレベーターホールに向かった。

 社長は『来ないで』と言われたので、戸惑う様子を見せながら立ちすくんでいる。

 運がいいことに、すぐにエレベーターが開いたので、乗り込んで「閉」ボタンを押した。

(これでいいのだ、これで)

 誰もいないエレベーターの密室の中で、声を押し殺して泣いた。

(さようなら、私の初恋)

 失敗続きの不器用すぎる恋だった。

 好きになってはいけない人だったのに。テレビ越しの芸能人を応援するように、遠くから眺めていれば良かったのに。

 知らない間に欲が出てしまった。社長に愛されたいという欲が。

 今日でもう終わり。もう二度と社長とは会わない。

(さようなら、社長)
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