ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
「えぇ~と、誰だっけ。不動産関係の御曹司だったと思う」

「名前くらいちゃんと覚えておいてよ!」

「大丈夫よ、最初に名乗るでしょう」

(本当にいいかげんだな)

 話していたら、あっという間に個室の前に着いてしまった。襖で閉められた扉の前に立つ。

 有紗と悠斗君とはここでお別れだ。二人からガッツポーズをされ、頷いて返事をする。

「お客様、お連れ様がいらっしゃいました」

 女将が部屋の中に向かって声を投げかけると、

「はい、どうぞ」

 と男の人の声がした。

 息が詰まるような緊張感に襲われ、深呼吸をすると、女将が襖を開けた。

 そこには、上質なブラックのスーツに身を包み、座布団の上に座っている眉目秀麗な男の人がいた。黒い髪は繊維のように艶やかで、はっきりとした二重瞼に薄い唇。座っていてもわかるほど身長は高そうなのに、顔は驚くほど小さい。黙っていても溢れ出る色気は、唯一無二の輝きを放っている。

 こんな綺麗な男性はこの世に二人といないだろう。

 つまり、この人は……。目の前に座っている、このお見合い相手の男性は……。
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