ご令嬢ではありません！～身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです～

（危ない目にあったせいで、思考が鮮明になった。今日は集中して取り組めそう）

　災い転じて福となす。危険な出会いだったけれど、ちょっとした気分転換にはなった。さあ、今日も一日頑張ろう。

　気合を入れて仕事に取りかかったのに、なぜか今日は次から次へと危険が迫ってくる。

「今から社長が偵察に来るらしい！ みんな受け入れ体制を敷け！」

（はああ⁉）

　主任の言葉に、みんなが驚き動揺しているが、この中で一番動揺しているのは私だと自信を持って言える。

　意味がわからない。今まで一度だって社長がクリーンルームを訪れたことはなかった。それなのに、どうして。

「どうして社長がここに来るのですか⁉ 今まで一度だって来たことないのに！」

　私が主任に詰め寄ると、主任は俺に聞くなよという表情を浮かべた。

　主任は三十代後半の子煩悩パパだ。最近、生え際が後退しているのを気にしている。見た目はまったくわからない程度なのだが、まだ若いのに苦労しているのだなと思う。