ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
 主任よりも上の役職の方々は研究棟にいることが多いので、現場を取り仕切っているのはもっぱらこの主任だ。

「田中は入社時期的に知らないかもしれないが、数年前まではよく来ていたよ。あの社長の趣味は研究だからな」

 趣味は研究⁉ 社長らしいけれども、今じゃなくて良くない⁉

 ていうか、今後一切来なくていいのですが!

「主任、私、具合が悪くなってきたので、帰っていいですか?」

「え⁉ そうか、午前中医務室行っていたからな。いいぞ、帰れ。気をつけろよ」

「すみません、ありがとうございます」

 殊勝な顔でお辞儀をして、クリーンルームを出る。

(今日は仕事がはかどりそうって思っていたのに)

 着替えながらため息が出る。とんだ邪魔が入った。

 会いたくない人物第一位、いや、会いたい人物第一位か。会いたくても会えない。こんなに近くにいるのに。

「田中すまん! お前が使っている最新実験機器の扱い方だけ教えてくれ!」

 着替え終わったところで、更衣室の外から主任の声がした。
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