難攻不落の女
 ここに来ることは前から決まっていたわけではない。帰り道に偶然新井と会って、久しぶりに飲みに行こうと誘われて、この店に連れてこられて。
 そうか、あの男か。
 宇美は振り向いた。新井は素知らぬ顔で、ウイスキーを楽しんでいる。

「それで、用事は?」宇美が訊くと、
「用事?」と笹目は首を傾げた。

「私に用があるんでしょう。仕事の話でも、今言ってくれても良いよ」
「外で会いたい理由は一つしかないですよ。宇美さんって、なんでそんなに鈍感なんですか」

「は?」
 宇美の眉間に皺が寄る。よく気が付くとは言われても、鈍感が一度たりとも言われたことのない言葉だ。睨み付けられたからなのか、すみません、と笹目は何度も謝ってきたが、腑に落ちない。

 注文の順番が回ってきた。本当にマッカランで良いのかと、口調を和らげて訊ねたが、声が耳に入っていないのか、彼は同じ物を五杯も頼んで財布を開いた。動揺からか、店員から金額を言われても、どの札をとるか指を迷わせている。

「いいよ」
 宇美は横からカードで決済して、腕組みした。ウイスキーを待つ間、喧噪が気まずさを掻き消してくれることに救われる。そっとため息を吐いたとき、笹目が口を開いた。
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