難攻不落の女
「俺らが若い頃は宇美のこと高嶺の花って言ってたけどな。仕事はできるし、よく周りに気がついて、困っているやつには手を差し伸べて。みんな端から諦めてた」

「冗談でしょ。女扱いされたことないんだけど」
「宇美が嫌がると思ったからだろ。よく言われてたけどな、手を出すなよと」

「その結果が四十五歳独身なんだけど、どうしてくれんのよ」
 すると、気付いてないだけで、宇美のこと気に掛けてる人間は、身近にも結構いるんじゃないのか、と新井はぼやいた。

 目的地に辿り着いたようだった。イベントポスターやチラシが壁中に貼られた、雑居ビルの階段を上がっていく。目当ては二階にあるアイリッシュパブのようだ。

 木製のドアを押した瞬間に、人の熱気が溢れ出す。正面にはウイスキーの瓶が壁一面に並んだ注文カウンター、左右の壁際には四人掛けのボックス席が三席ずつ、フロアの中央辺りには立ち飲み用の丸テーブルが並べられ、会社帰りとおぼしき二、三十代の男女がグラス片手に話をしていた。
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