難攻不落の女
入社して間もない頃は研修の帰りに、本社勤務になってからは日々の仕事帰りに、新井と二人で立ち寄っていた店だった。最後にここに来てから、何年経っただろう。
「懐かしいな、私はこの店の存在も忘れてたよ」
「俺もそうだったけど、なんとなく思い出して」
一席だけ空いていたテーブルにかける。見た感じ、店員を含めてもこの店で最年長だ。その中に紛れ込んでも、新井が気後れしないのは、若い恋人がいるからなのだろう。
「宇美は最近、何飲んでる?」
「澤乃井の凰」
「随分いい酒飲んでるなあ。マッカランでいい?」
若かりし日に好んだ銘柄を、新井は覚えていたようだった。返事も聞かずに席を立つ。オーダーが決まれば自分でカウンターまで買いに行く、セルフ式だ。
最近日本酒ばかりで、ウイスキーすら忘れていたが、昔は酒好きな新井に張り合おうと背伸びして、随分色々な種類を試した。彼にとって話の合う同僚でいたいと思っていた。
今思えば、それも壁になっていたのかもしれない。どれだけ飲んでも間違いが起きないのが良いところだなんて言って、笑っていたことも。
「やだねえ、こんな店に来るから、昔のことばっかり思い出す」
背筋の伸びた後ろ姿を眺めながら、宇美が独り言を漏らしたとき、急に後ろから肩を叩かれた。
「懐かしいな、私はこの店の存在も忘れてたよ」
「俺もそうだったけど、なんとなく思い出して」
一席だけ空いていたテーブルにかける。見た感じ、店員を含めてもこの店で最年長だ。その中に紛れ込んでも、新井が気後れしないのは、若い恋人がいるからなのだろう。
「宇美は最近、何飲んでる?」
「澤乃井の凰」
「随分いい酒飲んでるなあ。マッカランでいい?」
若かりし日に好んだ銘柄を、新井は覚えていたようだった。返事も聞かずに席を立つ。オーダーが決まれば自分でカウンターまで買いに行く、セルフ式だ。
最近日本酒ばかりで、ウイスキーすら忘れていたが、昔は酒好きな新井に張り合おうと背伸びして、随分色々な種類を試した。彼にとって話の合う同僚でいたいと思っていた。
今思えば、それも壁になっていたのかもしれない。どれだけ飲んでも間違いが起きないのが良いところだなんて言って、笑っていたことも。
「やだねえ、こんな店に来るから、昔のことばっかり思い出す」
背筋の伸びた後ろ姿を眺めながら、宇美が独り言を漏らしたとき、急に後ろから肩を叩かれた。