吸血王子と笑わない婚約者
「ッギャアアアアア!!!!!!」

「あっちぃ!!!??」



野太い悲鳴と共に、私を拘束していた男達の手が
一斉に離れて突き飛ばされる。

「ッ…!!」

塀にぶつかる未来に身構えて目をつぶった。
…けど、予想していた痛みと衝撃はこなかった。


代わりにやってきたのは、投げ出された身体を
ふわっと誰かに受け止められる感覚。


…?。この匂い、懐かしい、どこかで。
思い出せそうで思い出せない。


「私に掴まって」

「え」


呑気に考え事をしていたら、また懐かしい、
どこかで聞いたことがある声が聞こえて

次の瞬間、いきなり横抱きに…

…これが世間で言うお姫様抱っこというものか。


そんなこんなでいきなり抱きかかえられたと思ったら
次の瞬間、地面がどんどん遠くなっていった。



(…私、飛んでる???)


夢でも見てるみたいな、でも全身を撫でる夜風で
やっぱりこれは現実なのかと疑い始めた、数秒後くらい後。



パチン

とすぐ傍で指を鳴らす音。

何故かボォッ!!!!と激しく音を立て燃える車。

さっきの男達の「なんで!?」「まだローンが!!!」という断末魔。


まって。

どういうことなの。



…とりあえず下をチラ見してみたら、やっぱり大惨事だった。
男達は無事みたいだけど、修理代が大変なことになりそう。


半ば現実逃避で車と人の様子を心配していると、
またあの懐かしい声が頭の上から降ってくる。


「心配いりマセンよ、ちょっと脅かしただけデスから…軽い火傷程度で済むデショう。でも、もう少しお仕置きしてもよかったデスかねぇ?」


月の光に反射して、綺麗に光る白銀のツンツンした髪。
血のように濃くて紅い、瞳孔が縦長の瞳。
口の端から見え隠れしている、長くて鋭利な牙。
大きくて蝙蝠みたいな、逞しい翼。


「私の大切な貴女を傷つけたんデスから」

そっと頬に、彼の手が触れる。

懐かしい匂い。懐かしい声。懐かしい触れ方。
ああ、この人。この人は…。



「迎えに来マシタよ。私の…」
「どちら様でしたでしょうか…?」



「………」
「………」





「え…忘れ…え…ええええええええええええ!!!!!!!」




誰だったっけ…。

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