吸血王子と笑わない婚約者
「もう、危ないじゃないデスかぁ!レディが夜中に一人でお散歩ナンテ!」

プンスコ怒りながら、彼は小慣れた手つきで
私の分のココアと、自分の紅茶を淹れている。

勝手に。人の家で。…どうしてこうなった。
ていうか何で食器の場所とか把握してるの。怖。

いや、家に入れたのは他でもない私なんだけど…。

あのまま横抱きで「宙」に浮いてたんじゃまともな話もできない。かといって、彼の服装…

吸血鬼コスプレのままじゃファミレスに入ることもできないし。


「さて、そろそろ本題に入りマショうか」

淹れたての紅茶を机に置いたのを合図に、彼はとうとうその話題を切り出す。


「貴女…杏サンは私と以前とある約束を交わし、私はその約束を果たすべく今此処にいるのデス…が」

探るように私をじっと見つめる視線に、思わず唾を飲み込んでしまう。

「…その、全然、心当たり…覚えてなくて。なんかごめんなさい、助けてもらったのに…」

「あっいえいえ!!責めるつもりは無いんデス!!仕方ナイことなんデスよお!我々魔族と関わると色々と規制されたりしマスから…」

「魔族…規制?」

魔族のあたりは、彼が人ならざる者だというのはさっきの出来事で嫌でも理解してるからいいんだけど…。空飛んで車燃やしてたし…

「ええ…」

ううん。と唸りながら、至極面倒臭そうに彼は語る。

「我々魔族と人間は本来、世界の均衡を保つため…ま、簡単に言うと偉い人のお許しが無い限り関わっちゃ駄目なんデスよ。貴女が私のことを憶えていないのも、おそらくそのお偉いさん達が関係してるんデス」

「偉い人…それって神様?」(それ以外思いつかないし)

「ええ、まぁ、そんな所デス…神の犬どもめ…杏サンと私のラブラブでスウィートだったあの日々の思い出を封印…」

「待って」


らぶらぶですいーと。



な に そ の 私 に 縁 の 無 い ワ ー ド 。


「つまり…私とした《約束》、って…」

「ンフフ、思い出して頂けマシタ?」


意図せず震える声を、どう受け取ったのか。

机越しに身を乗り出し、彼は私の冷や汗が伝っているであろう頬に触れる。




「私の愛しい婚約者(フィアンセ)


一瞬にして気が遠くなったのは、言うまでもない。
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