偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

 輝が花穂を無理やり引っ張る。その拍子に自転車ががしゃんと派手な音を立てて倒れてしまう。

 それなのに輝は見向きもしない。完全に周囲に目が行かなくなっているようだ。

(このまま連れていかれたら何をされるか分からない!)

「離して!」

 花穂は大声を上げて抵抗する。

「大人しくしろ!」

「嫌です!」

 抵抗する花穂に苛立つ輝の顔に強い怒りが浮かんだ瞬間、大きな声が響いた。

「花穂!」

 声の方に振り向くと、響一が慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるところだった。

「響一さん……」

 心からほっとした。彼が来てくれたからもう大丈夫だと信じられる。花穂は思い切り輝の手を振り払った。

「お前!」

 輝が怒りの声を上げたが、同時に響一がやって来て輝に険しい視線を向けた。

「これはどういう状況ですか? 妻と揉めていたように見えたがあなたは?」

 響一にしては珍しく感情的な声だった。おそらく花穂が無理やり引っ張られているところが見えたのだろう。そうでなければ他人に対していきなり攻撃的な発言はしない人だ。

 響一が花穂を隠すように輝の前に立ったので輝の表情は見えないが、きっと怒りが増しているはず。

 そんな輝が何と言い返すのかはらはらする。
< 114 / 214 >

この作品をシェア

pagetop