偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 花穂は焦る気持ちを抑えて静かにクローゼットを開き、数日分の荷物を纏め始める。

 その後、三時間程、仮眠を取ってから家を出た。



 花穂の実家は東京から急行電車で二時間ほどの地方都市にある。

 景色が美しいのんびりした土地柄だが、海が近く市街地近辺にはいくつか史跡があるため、県外からの観光客が多い。

 駅からタクシーで十五分程走ると、高台に花穂の生まれ育った大きな日本家屋の家が見えてくる。

 築五十年以上経つ古い家屋だが、五年程前に耐震工事とリフォームをしたため、室内は現代風だ。

 滑りのよい引き戸を開けると、驚いたことに父が待ち構えていた。

「花穂、遅かったな」

 三年ぶりに会う父は、記憶よりも痩せており顔色も悪く見えた。

 母が倒れたために心労で弱っているのだろうか。

 花穂は軽く頭を下げた。

「お父さん、久し振りです」

「まずは入りなさい」

 父に促され、焦る心を抑え靴を脱ぐ。

「あの、お母さんが倒れたって、何の病気なの?」

「両足を骨折して寝たきりだ。医者が言うにはかなり骨が弱っているそうだ」

「骨が弱いって、お母さんはまだそんな年じゃないでしょ? 今はどこにいるの?」
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